レセッタⅡ
「何でだっけねぇ、あ、そうそう、思い出した。あたしの知り合いで教会で『ならず者』になった人がいて、当然白い目で見られて食べるのに困ってしまったんだ。それで彼は仕方なく職業でもらった力を使って『ならず者』らしいことをしたんだよ。まあスリとか窃盗だね。それであるとき教会の衛兵に捕まったから、教会に抗議に行ったんだ」
「なるほど」
どこの国でも変な職業をもらった人は苦労しているらしい。
「そしたらやつらは罪は罪だって言うからあたしは言ってやったんだ、『神が彼をならず者にしたんだったら、彼は神に命じられたことをしただけで悪くはない』って。そしたら彼らは『ならず者になったのは本人が徳を積まなかったのが悪い』『努力不足だ』なんて訳の分からないことを言い出してね。
だからあたしは尋ねた。『どれだけ悪そうなやつでも、素晴らしい職業を持っているのならばそれはその人が素晴らしい人物であるということなのか』と。そしたら彼らは頷いたんだ」
先ほどまで赤ら顔で酔っぱらっていたレセッタだったが、この話題になると急に真剣な表情になる。思い出しても憤りが収まらないようだ。
「だからあたしは彼の職業を『聖人』に変えてやった」
「聖人」というのは珍しい職業で、非常に道徳的な人物を指すらしい。
もはや職業ではなく人格のような気もするが、そのような尊敬されるような人格の持ち主であればそれだけで生活していけるということなのだろう。
「そしたら彼らはびっくり仰天してね。とはいえあたしの偽装能力は完璧で、どうも自分たちが彼の職業を誤認していたと思ったらしい。どうするのかと思ったら何と無罪になったという訳だ」
「何でだ? 職業を間違えようと、やったことは変わらないだろう?」
「そこで彼らは『聖人の方の職業を間違えたからそのせいでこんなことになったに違いない』とか言い出した。本当にろくでもないと思ったあたしは『司祭』になり、教会に入りにいった。そしたら入れてくれたんだ」
「怪しまれなかったのか?」
普通短期間に何度も職業が変われば怪しいと思われそうなものだが。
「まあ怪しくは思われたんだろうが、神が与えた職業が変わる訳がないからと言って勝手に納得してくれたよ。その後教会が思ったよりも金を持っていることに気づいたから、食べ物に困っている人を助けるのに使ったらどうだと言ったんだ。そしたら拒否されたから困っている人を全員神官にすることに決めたって訳さ」
「ところで今この教会はどうやって維持してるんだ?」
「ああ、元々ため込んだ金を使っているのと、たまに秘密で金持ちの人の職業を変えてあげてそれで金をもらってるんだ」
確かに職業を偽ることが出来るのであれば大金を払ってもいいという人はいるだろう。
レセッタがあっけらかんと話しぶりに俺は好意を抱く。
目の前で酒瓶を傾けている様子から得られる印象とは違い、レセッタはかなり正義感が強い人物のようだ。身なりも特に華美ではないし、酒もそんなに高そうなものではなく、贅沢をしているようにも見えない。
そこでいよいよ俺は本題に入る。
「ところでレセッタは自分の力に『レベル』というものがあることに気づいているか?」
「確かにあるにはあるね。正直何なのかよく分からないけど」
「やっぱりか。実は俺の力にも同じようなものがあるんだ」
「へぇ、で、レベルっていうのは一体何なんだい?」
「簡単に言えば、それが上がるほど力が強くなっていくということだ。恐らくレセッタもより珍しい職業に見せることが出来るようになるんじゃないか?」
「なるほどねぇ、そういうものだったとは」
レセッタが感心したように言う。
どうやら彼女はそこまでは気づいていなかったらしい。
「とはいえ、あたしの力はそんなに使いどころもないし、レベルを上げるのは難しいねぇ」
「まあ確かにそうか」
その辺はうまく出来ているようで、例えば俺がリンやティアと協力してひたすら身内で職業を交換し合ってもレベルは上がらなかった。俺の場合は新しい交換や強化、合成を行わなければならないし、レセッタの場合は色んな人の職業を偽装しなければならないのだろう。
「まあせっかく来たんだ、一晩ぐらい泊まっていきな、それにうちの者がしでかした不始末のお詫びもあるし、もてなさせてくれ」
「それならお言葉に甘えて」
悪い人ではないようだし、そう言ってくれるなら悪い気はしない。
リンたちも特に異存はないようだったので、俺たちはもてなされることにした。
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