再会Ⅱ

「リオナ……」


 まるで魔物たちを従えているかのような彼女の姿を見て俺は呆然としてしまう。

 ただトラウマがある幼馴染と再会しただけなのであれば、一瞬動揺する程度ですんだだろう。今の俺は無職で何も持っていなかったあのときの俺とは違う。もうあのときのように一方的に軽蔑されることはない。


 しかしリオナは明らかに魔物たちを従えている風に見える。

 俺の知っているリオナであればそのようなことは絶対にしなかっただろう。俺のことを拒絶したのも一応彼女なりの正義感の表れだったはずだ。


 それなのにどうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 俺を拒絶した後に変わってしまったのか、それとも何か事情があるのか。

 だめだ、考えても訳が分からない。


「あの、もしかして知っている方ですか?」


 呆然としている俺にリンが遠慮がちに声をかけてくれる。


「あ、ああ、そうだ。みんなと会う前の……知り合い、みたいなものだ」


 友達や幼馴染という言葉が浮かんだが、それを口にすることは出来ずに知り合いという薄い言葉が口をついて出る。


「何でその人がこのような?」

「そ、それは俺にも分からない……」


 そんな話をしていると、リオナが周囲の人に向かって尋ねる。


「この街には職業の売買が出来る人が聞いたんだけど、誰か知ってる?」

「ああ、アレンさんか。確か今ギルドにいたと思う」


 声をかけられた冒険者はそう言ってこちらに歩いてくる。

 そうか、俺のことが噂になっているからわざわざ彼女を派遣してきたのか。もっとも、彼女は噂の人物が俺であることに気づいていないようだから本当に偶然なのだろうが。


「大丈夫でしょうか?」


 ティアが心配そうに声をかけてくれる。

 俺はどうにか表情を引き締めて頷く。


「ああ。それに彼女にはあれのことも訊ねないといけないからな」


 そう言って背後にいる魔物たちを指さす。


「あの、私たちも……」

「いや、もし何かあったら困るから待っていてくれ」


 俺は反射的に三人にそう言う。


「え、何かあるかもしれないのでしたらなおさら私たちが近くにいた方がいいのでは?」

「リン、心配は嬉しいがそういう相手じゃない」

「アレンさんがそう言うなら大丈夫でしょう」

「は、はい……」


 ティアが間に入りリンはしぶしぶ頷くが、俺自身も自分が口にした理由が本当の理由だとはあまり思えなかった。

 本心では俺はリオナと話して無様な姿をさらしているところを三人に見られたくはないと思っていた。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は人並みをかき分けてリオナの前に出る。

 するとリオナの方も俺を見て驚いたような顔をする。


「へえ、本当にアレンだったんだ。名前を聞いてもしやとは思っていたけど、まさか『無職』のあんたがここまでのことになるなんて」


 そう言って話しているときのリオナは一見すると別れる前とそんなに変わっていなかった。だが、どこか違和感がある。


「それで、何の用だ?」

「久しぶりに会ったのにつれない態度ね」

「当然だ、あのとき俺を見捨てやがって」

「だって『無職』だって聞いたから。そんなに強い力を持っているっていうならそのときそう言ってくれれば良かったのに」

「何だと?」


 あまりに勝手な言い草に苛立ってしまう。

 今のリオナに苛立ったところで仕方ないと言うのに。

 勘ではあるが、俺は今のリオナはあのときのリオナと違うと確信していた。それがいい変化なのか悪い変化なのかまでは分からないが。


「それで用というのは、あんたの噂を聞いたアルト公爵様がお会いしたいとおっしゃっているの。それで私を迎えに出した」

「随分結構な迎えだな」

「ああ、これは気にしないで。他の実験用だから。もっとも、もしついてこないと言うなら話は変わるけど」


 リオナは脅迫としか思えないことをさらりと言う。やはり今のリオナは尋常ない。

 そこで俺は気づいた。

 リオナに関する違和感は、例のトロールを見たときの違和感と似たものだった。ということは彼女もあのトロールのように職業を大量に持っているのだろうか?


 例えば、「奴隷」のような。

 そう言えばリオナは「聖剣士」だったはずだが、今は彼女の職業は見えない。目の前に誰かが立っていてもつま先から髪の毛一本一本までの情報全てが入ってくる訳でもないように、職業もある程度意識しなければ見えてこない。

 そこで俺は彼女の職業を意識する。


「うぅっ“」


 その瞬間俺は眩暈がして思わず額を抑える。

 リオナが持っている職業は「聖剣士」の他に、「奴隷」が複数、さらに「魔術師」「神官」「拳闘士」など様々なものがあってぐるぐると渦巻いているかのようだった。


 何だこれは……


「どうしたの、体調でも悪い?」


 リオナは気遣うというよりは不審がるように尋ねる。

 そこで俺は無理にでも気持ち悪さを堪える。


「いや、ちょっと立ち眩みがな。しかし一体その魔物は何なんだ? それも言わずについてこいとだけ言われても恐ろしいんだが」

「そうね。どの道拒否する権利なんてない訳だし、教えてあげる」


 そう言って彼女は軽く手招きする。

 人のいないところに来いということだろう。少し危険ではあるが、今俺の身に何かあれば三人が心配してくれるはずだ。

 それにこいつらの正体を知れるのであれば知っておきたい。

 そう思った俺はついていくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る