フィリアの疑念

「なかなかやるじゃないですか、フィリアさん」


 戦いが終わって、それまでフィリアに対抗心を燃やしていたリンは素直に彼女を見直したようだった。


「いえ、これくらいは当然だけど……三人とも凄まじい活躍ね。特にアレンさん」

「俺か?」


 確かに俺は表向き職業の取引を行う力しか持っていないのにここまでの戦闘能力を発揮してしまっている。

 ギルド内では「マグレと思ったが本当に強かった」という程度の認識だったが、改めて強さを実感したフィリアからすると、俺がなぜここまで強いのか疑問なのだろう。


「ええ。聞いたところによるとあなたが冒険者を始めたのは最近のことだとか。しかもあなた自身は職業を持っていないって」


 よく調べたな、と思ったがどちらもギルドで聞けばすぐに分かることだった。


「それなのにこれほどの力を持っているなんて、きっとあなたは職業を取引する以外にも何か凄い力を持っているに違いないわ」

「自分で言うのもなんだが、世の中には才能がある人間というものはいる。俺は元々荒事は得意だったんだ」

「いくら才能があっても職業もなしにドラゴンを倒すなんてできないわ。それにこの二人」


 そう言ってフィリアは次にリンとティアに目を向ける。


「ただの『奴隷』にしては剣の腕が良すぎるし、ティアさんも普通の『魔術師』とは思えない魔力の量よ」

「そんなことはないと思いますよ」

「いえ、私は学園でたくさんの魔術師と会ってきたので分かりますが、ティアさんはその人たちと比べてもトップクラスです」

「……」


 ティアの魔力は生まれつき多いと思っていたが、エリートと比べても多いのか。血縁で決まると言うのであれば確かに貴族なんかの子弟よりも多いのは当然だが。


 フィリアの言葉に俺たちは思わず顔を見合わせる。

 正直なところ、俺は自分の力がバレるといい方向に転がるのか悪い方向に転がるのか見通せないでいた。ただ、いい方向に転がるとしても屋敷や王宮のようなところに勤めるのは嫌だから黙っていた方がいいと思っている。

 しかしこのままではフィリアによってアルト公爵に、俺たちは強いということは報告されてしまうだろう。

 遅かれ早かれ伝わるにしろ、出来るだけ遅い方がいい。


「確かに俺たちは強いかもしれないが、それが俺の力と関係あるという確証はあるのか? それに貴族様からすれば俺たちくらいの冒険者なんていくらでもいるだろ?」

「それはまあ……しかしもしも知っていることがあれば教えて欲しいのです。一応私は学園では座学の成績はトップでした。ですからこちらからも何か情報をお伝えできるかもしれません」

「ちなみに成績トップであるところのフィリアは職業を持たない者の事例を知っているのか?」

「それは……人間の異教徒、もしくは魔物でしょうか」


 フィリアは少し言いづらそうに答える。

 やはりそうなるのか。ということは偉い人からは俺は異教徒として認識されるのだろうが、そうなると神殿に睨まれる前にグローリア神が信仰されていない遠くの国に行った方がいいのかもしれない。


「まあせいぜい、神殿に睨まれないように報告してほしいものだな」

「それについてはしばらくは大丈夫かと思います。アルト公爵は神官よりも魔術師を重用するので、そこまで神殿に近い訳ではありません」


 そういうものなのか。

 とはいえ、それはそれで好奇心から「連れてこい」ということになりそうではあるが。


「まあ、与太話はこれくらいにして先に進むぞ」

「はい」


 その後、俺たちはリザードマンたちを倒しながら奥へと進んでいく。フィリアの魔法で足元の問題を解決すれば、リザードマンたちはリンの敵ではない。


 ダンジョンの奥に進むにつれて足元の沼地は深くなっていき、敵に強くなっていく。それでも敵はほぼリンだけで片がつき、俺はリンがうち漏らした敵を討伐するだけで済んでいた。


 そしてついに俺たちはボスがいると思われる部屋の前に辿り着く。


「よし、今からボスと戦うことになるが、気を引き締めていくぞ」

「はい」


 

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