メイド魔術師

「さて、そうと決まったら早速職業のことだが、ティアには俺が持っている『白魔術師』を使ってもらおうと思う」

「いいんですか? 魔術師系はかなり稀少な職業と聞きますが」

「王女に比べたら全然大したことない。そしてその前に、仲間になるなら俺の力の全容について話しておかなければならないな」


 そして俺は自分が職業の合成と強化ができること、そしてリンが剣豪奴隷という特殊な職業であることを話す。

 それを聞いたティアはさすがに呆然としていた。


「そんなことがあるなんて……信じられません」

「そうだろうな。とはいえ、これから嫌でも信じることになる。というのも、ティアの白魔術師には別の職業を合成するからだ」

「は、はい」


 さすがのティアも理解が追いついていないようだ。

 実は「王女」を手に入れて俺のレベルが上がったおかげか、職業合成師の力は強化された。前は合成や強化を行うとどうなるのかよく分からなかったが、どうなるかが分かるようになったのだ。


 昨夜あの後いろいろ試してみた結果、白魔術師に「兵士」などの職業を合成しても多少身体能力が上がるぐらいしか変化がない、というような合成後の結果も分かるようになっていた。「剣士」であれば魔法を使いつつ剣も扱えるようになるらしいが、「剣士」はリンの強化に使いたい。


 「農夫」だと土属性魔法が強くなるが白魔術師はそもそも土属性魔法はそんなに使えないようだった。


 また、「王女」を使用すれば魔力が飛躍的に上がるようだったが、合成して「王女」がなくなると困るのでやめておくことにした。俺自身の強化になるかもしれないというのもあるが、状況によっては将来的に「王女」は隣国に返却しなければならなくなるかもしれない。


 そんな諸々のことを考えて、俺が特に有用だと思ったのはこの二つだ。


「メイド」 主人が近くにいる、もしくは主人のために行う行動が強化される。

「杖商人」 杖を使って行う行動が強化される。


 まさか杖商人などというピンポイントすぎる職業が役に立つ場面があるとは思わなかった。基本的に魔術師は魔法行使の補助に杖を持つことが多いので、杖商人のアバウトな強化能力は役に立つ。

 また、メイドも魔術を含む全般に強化効果があり、特にいいところはありふれた職業なので強化しやすいところである。


 一つ問題なのはついこの前まで王女だったティアが、強化のためとはいえ他人を主人と認めさせることだが……


「と言う訳でちょっと申し訳ないが、ティアには”メイド魔術師”になってもらおうと思う。あくまで主人というのは職業の効果のために便宜的に……」

「いえ、全然構いません!」


 思いのほかティアは躊躇がなかった。


「先輩であるリンさんがアレン様をご主人様と慕っているのですから私もそれに倣わせていただきます!」

「お、おう」


 彼女は勢いよく宣言する。

 この状況でリンのことにまで気が回るなんて、王女の割に随分人の感情の機微に通じているというか、処世術に長けているというか……。

 感心するよりも先に、彼女がどんな環境で育ってきたのか心配になってしまう。よほどごたごた権力争いの中で育ってこないと、この年でこうはならない気がするのだが。


「いえ、私に気を遣うことは……これは私が勝手に慕っているだけですので……」


 さすがのリンも遠慮しているようだ。


「それに魔術師としてしかめつらしく振る舞っているよりも、表向きはメイドとして振る舞っている方が王女らしくなくていいと思うのです」

「なるほど」


 それを聞いて俺も彼女がメイドを受け入れた理由を理解する。


 やはりティアは聡明だ。最初は無意識のうちに彼女は保護した方がいい対象という気分だったが、身分を差し引いたとしても本来は俺の方から頭を下げてでもパーティーに欲しい人物だったかもしれない。


「では行くぞ?」

「はい」

 

 俺はまずリンに「白魔術師」を渡す。

 それから「メイド」と「杖商人」を合成する。


”「白魔術師」と「メイド」と「杖商人」を合成し、「メイド魔術師」に変化しました”


「本当だ!?」


 合成が終わると、ティアは驚きを露わにする。


「それだけじゃない」


 俺は余っていたメイドを二つ合成する。


”「メイド魔術師」が「メイド魔術師(+15)」に強化されました”

”あなたのレベルが9に上がりました”


 強化値が上がっているのは俺のレベルが上がって効率が上がったおかげだろうか。


「すごい……まさかこの世にこんな力があるなんて。私はあなたの人柄を見込んでパーティーに加わることに決めましたが、とんでもない力をお持ちのようですね」

「俺はこの力を解明したいと思っている。そのためにリンに協力してもらっていたが、今後はティアにも協力して欲しい」

「分かりました」


 ティアは圧倒されたように頷く。


「では冒険者登録しにギルドに行こう」

「はい……あの、すみません」

「どうした?」

「出来れば、ふさわしい服装と装備を買っていただきたいのです」

「分かった」


 言われてみれば、ティアが着ているのはボロボロではあるが、元は高級な服だ。冒険に適さないのはもちろん、人前に出れば身分を邪推されるかもしれない。


 そんな訳でティアには黒ローブを羽織ってもらい、俺たちは街の服屋に向かった。



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