空想科学怪奇劇場 MONSTRUM ───怪獣特撮ノベル───
フラランマ
峠坂の鳥人 虚空怪人『鳥人』登場!
一章『はじまり MONSTRUM』
ある夕方のこと。
公園では子供たちが走り回っていた。隅の方ではスーパーの袋をぶら下げて雑談をする主婦たち。
カラスたちがゴミ袋を突いている。カァ、と一声。
そこへ元気のいい柴犬が突っ込んだ。驚き散っていくカラスたち。若い娘が首輪を引きずって遠ざけていく。
鬼ごっこを続ける子供たち、あちらこちらに散らばっていく。公園の木立に逃げ込んだ一人の少年。隠れる場所を探していると、突如目の前に不気味な影。
「こら、どうしたの!」
娘が柴犬のリードを必死に引っ張る。なぜか犬は木立に向かって吠えている。
怖々と影に近づいていく少年。影は大人くらいの背丈で、マントのような布を纏っている。頭には笠のようなモノを被っていた。
少年が見上げた。影の笠の下で目のようなモノが光る。
「わ────────!」
少年が声を上げ走り回る仲間たちの元に逃げ帰る。
「こーうーへーいー。帰るよー」
母親が呼びかけた。しかし子供たちは木立の方に固まって何かを見上げて動こうとしない。
「何見てんのよー」
母親がビニール袋を揺らしながら近寄り、子供たちの見上げる方向を見た。
子どもと主婦が集まっているのを不審に思ったのか警官がやって来た。皆の見ている方を見上げる。
────電柱の上に人が立っていた。
外套で体を覆い、頭には黒光りする笠。鳥の如き顔。
夕日の逆光がその輪郭を曖昧にする。
「でね! 飛ぶんだよ! ばぅーって飛ぶの!」
興奮する子供。
突如、人影が外套を広げた。それは外套というより、羽ばたく一対の翼。二三度羽ばたき茜空に舞い上がり、滑空しながら家々の上を飛んでいく。
あんぐりと口を開ける人々。
その『鳥人間』は夕日を横切り西の空へ消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
青年、
頭を掻いて布団から立ち上がり衣服と雑誌が散乱する部屋を横切り風呂場へ。シャワーを浴びて服を着替えた。
スマホを開くと姉からラインが来ていた。
就職を急かす見慣れた言葉。適当な返事で誤魔化す。
「……バイト行くか」
茜色に染まる空。
「……お先上がるっすね」
「おう、お疲れ」
バイト先のスーパーの裏口から出てくる剣次。駐輪場に止めてある自転車に乗って帰る。途中、自販機でジュースを買った。横を高校生のカップルが笑いながら通り過ぎる様子をつまらなそうに眺めた。
大学卒業から二年、剣次の日々はこのように過ぎる。
自転車で坂を上る。この坂は一応幹線道路になっているらしいが人通りは少ない。
坂の頂上で自転車を止めて脇のガードレールの影に隠した。坂を見下ろす場所に出る。
この時間、空は茜色が黒色へと移り変わっていく。この場所が剣次は気に入っていた。
下に見える町では外灯が瞬き、増えて行く町灯り。道路には渋滞したテールランプ。
初めてここに来たのはいつの事だっただろうか。中学生の頃か最も前かもしれない。なぜこうしているのかも理由などない。ただ、この風景が好きだ。
「…………?」
ふと、違和感を感じた。
岩に落ちる影がいつもと違う形だ。
振り向き上を見上げる。影の出どころは座っている岩の更に上だ。一枚岩の断崖絶壁の頂上。
登る道などないはずの頂上に、誰かが立っている。
その人影がこちらを見下ろした。
『鳥』。そう思った。
クチバシのような仮面の向こうで眼球が夕日を閉じ込めたかのように煌々と光っていた。
「驚いた。この場所に主がいるとはな……」
剣次も驚いている。怪人は流暢な日本語を喋り翼を広げるといつの間にやら隣に舞い降りていた。横の崖から生えた松の枝先に止まる。
夜が迫る中、既に影だらけとなった世界で『鳥』の目だけが浮かび上がり、こちらを向いた。
「申し訳ないが、私もしばらく此処によらせてもらうよ」
わけもわからずただガクガクと頷いた。
「ありがとう」
頭を下げる『鳥』。滑空するように町へと飛行する。
飛ぶその先には一番星の如く輝く高層ビルの赤灯。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます