第34話 エミリーの過去



「サラ様、またお会い出来ることを楽しみにしていますわ。」


「寂しくなりますわ。」


最終日の教室、授業が終わるとクラスメイトの令嬢達が声を掛けてくれた。

エミリーと共に行動しなくなってから声かけられることが多くなったのだ。


「エミリー様もご挨拶なさったら?」


「そうよ!

サラ様に仲良くして頂いてじゃない!」


令嬢達がエミリーを非難する。

エミリーは耳に入っていないかのように無視をしている。

僕は立ち上がり、エミリーのそばへと歩む。


「エミリー様、大変お世話になりました。

貴女と友人になれたこと私は嬉しく思います。

貴女のことは一生忘れません。

もっと仲良くなりたかったです。

あの日のこと本当にごめんなさい。

ありがとうございました。」


エミリーに声を掛け、僕は教室を後にした。

結局彼女と仲直りすることは出来なかった。

この後は王城へ行って、変装を解けばサラとエミリーは二度と会うことがない。


「待って!待ってサラ!」


校門から出て、王城へと向かう馬車に乗ろうとしたところ声を掛けられた。

振り向くとエミリーが居た。


「ごめんなさい!

貴女が悪意があってあんなこと言ったんじゃないって私わかってたわ。

なのに意地になって無視したりして、、、。

このままお別れなんて嫌なの!

今更都合が良いかもしれないけど、話をさせてほしいの!」


馬車に乗るをやめ、御者に伝える。


「1時間ほど時間を頂けないでしょうか?

友人と最後に少しだけ話をしたいのです。」


こうしてサラとエミリーは二人で最後の時間を過ごすことになった。




「私の家はね、とても貧乏だったの。

お父さんは働かないでお酒を飲んでばっかりで、お母さんは一人で仕事を頑張ってた。

まだ幼い私のことはお兄ちゃんが見ていてくれたわ。」


エミリーが自分の過去について話してくれているのをサラが静かに聞く。


「お父さんにはよく殴られてた。

でも私なんてマシなほうよ!

お兄ちゃんは私を庇ってくれるから、何倍も殴られていたの。

ひどい生活でも耐えられたのはお兄ちゃんのおかげなの、、、。」


働かず、酒を飲み暴れる父親最低だ。


「お父さんはそんなお兄ちゃんのことが気に入らなかったみたい。

私が4歳くらいの頃にお兄ちゃんは家から居なくなってしまったの。

どこに行ったのか、お父さんがお兄ちゃんに何をしたのか、無事なのかすらわからないわ。

その後は本当に人には言えないくらい地獄みたいな日々だった。」


エミリーは目に涙を浮かべている。

今にも涙が溢れそうだ。


「地獄はね、突然終わったの。

お兄ちゃんが居なくなって半年が経って、お父さんが死んだの。

これでやっと生活が楽になるかもしれないって思ったわ。

お兄ちゃんを探して3人で暮らしていこう、やっと楽しい生活を送れるって思った。

でもね、今度はお母さんの体調が悪くなった。

働きすぎだったのね、きっと。

それからは二人で内職をしてギリギリの生活を送っていたわ。」


目からボロボロ涙を溢しながら話す。

彼女は袖を伸ばし、涙を拭う。


「そんな時よ!教会で祈っていたら手が光って痣が出てきたの!

それからは聖女候補だからと言って、教会の人が暮らしを助けてくれることになったわ。

お母さんの治療もしてくれているの!

女神様は居るんだって思ったわ。」


今度は笑顔で話してくれる。


「私ね、王妃様になりたいの!

そしたら国中の人に見てもらえるでしょう?

お兄ちゃんが生きていたら、私を見つけてくれると思うの。

お母さんにももっと良い暮らしをさせてあげたいの!」


僕の目からも涙がボロボロ溢れた。

彼女がどんなに辛い思いをしてきたのか、僕は知らなかった。

ただアンが大切で、大好きで、守りたくて、彼女は妹の敵だと思ってたから知ろうともしなかった。

僕が大好きな国でこんなにも辛い思いをしている人がいるなんて知らなかった。

知らないことは罪だと思った。


「ごめんね、エミリー。

何も知らなくて貴女を傷つけてしまった。」


謝る僕の涙も彼女が袖で拭ってくれた。


「私が話してなかったんだもの、知らなくて当たり前だわ。

お金持ちってみんな嫌な人ばかりだと思っていたの。

学園の人たちはそうだったから、、、。

でもサラは違ったわ!

食堂で私を馬鹿にする人たちに、エミリーは身分じゃなくて個人を見てくれたって言ってくれたでしょう?

サラは私のことも身分じゃなくて私として見てくれていたわ!」


やっと彼女の本音が聞けた気がした。


「サラ、私と友達になってくれて本当にありがとう。

貴女のことは一生忘れないわ! 」


「私もエミリーと友達になれて本当に良かったと思っているわ!」


二人で笑いながら握手をした。




「また会いましょうね!サラ!」


そう言ってエミリーが手を振りながら馬車を送ってくれた。

僕のサラ・ジェシカ・ルーナとしての日々が終わった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る