第12話 花言葉


「8月になり、学園が夏季休業になるとエミリーが頻繁に王城に来るようになりました。

課題の質問や、悩み事の相談が主でした。

その中で街に買い物へ行きたいという話が出ました。

友達が居ないので、ショッピングをしたことがないとのことでした。」


仲を深めてデートに持ち込もうとしのか!!

さすがエミリー、もう尊敬すらする。


「さすがに二人で行くのは気が引けたので、僕の幼馴染で同級生のロンを誘いました。

ロンは快く引き受けてくれました。」


ロンとはロン・エリック・ドレインのことだろう。

殿下の幼馴染にして親友、ドレイン伯爵の一人息子だ。

剣術に長け、将来は殿下を支える騎士になることを目標としている。

黒い長髪を一括りにし、切長の目には細い銀縁の眼鏡、180㎝はあるだろう長身で、文武両道という完璧な男らしい。

同級生の女子たちの間で話題になっているのを聞いたことがある。


「ショッピングの際、エミリーがブローチを欲しがっていました。

しかし、彼女の持ち合わせで買える物ではなかったようでした。

その頃すでにエミリーを好意的に見ていたので、僕が彼女にブローチをプレゼントしました。

白いマーガレットのブローチでした。」


あの女!!!!やってくれたな!!!!??


「殿下は花言葉という物をご存知でしょうか?

花には1つ、1つ、それぞれに抽象的な意味を持たせた言葉があるのです。」


僕の言葉に殿下の顔が青ざめていく。

最愛の妹にたくさんの花束をプレゼントしてきた僕は花言葉に人よりも詳しい。


「エドワード、、、お前まさかアンに花を贈るために花言葉まで調べていたのか?」


父が横でドン引きしている。

妹を愛しすぎる僕を汚い物を見る目で見ている。

大丈夫、慣れている。


「お父様、アンのためなら当然です!!!」


真っ直ぐ、曇りなき目で父を見つめた。

父が頭を抱える。

殿下も苦笑いを浮かべている。


「エドワード様、白いマーガレットの花言葉をご存知でしたらご教授して頂けますか?」


殿下が恐る恐る聞いてくる。

残酷なことだろうが、伝えよう。


「これはマーガレット全般に言える花言葉ですが『秘めた愛』です。」


殿下の顔が更に青くなり、背もたれに倒れ込んでしまった。


「「殿下!!!!!」」

「フレデリック!!!!」


3人で殿下に声を掛けた。


「僕は大丈夫です、、、。

これもエミリーの策略だったのですね、、、。」


エミリーは花言葉を知っていたのだろう。

殿下がマーガレットのブローチを贈ったことを花言葉を知っている物に伝われば

『婚約者がいるから大々的には言えないが、殿下が本当に愛しているのはエミリー』

だという噂になるだろう。


実際殿下が他の女性に贈り物をして、その女性に夢中だという噂を夜会で耳にした。

そしてマリエルにはアンの様子を気にかけるように伝えた。


「秋になり、エミリーは学園で僕に声かけることが増えてきました。

そんな時また彼女が奇跡起こしました。」


3回目の奇跡か、、、。


「僕が教会を訪問中、熱が下がらない男の子が運ばれたのです。

困り果てた母親が連れ込みました。

エミリーが祈りを込めた水を飲ませると、みるみる熱が下がっていました。」


子どもの熱を水だけで下げるなんて不可能だ。

これは奇跡と呼ばれても仕方ない。


「見ましたか!この力!フェイン家のアン嬢ではなく、このエミリーこそが真の聖女なのです!」


教会の者は口々にそう言いました。


「その頃にはもう僕はエミリーに夢中になっていました。

僕の趣味である紅茶にもエミリーは詳しく、これは運命なのだと思いました。

やがて夜会でもエミリーと踊るようになり、彼女がドレスを1着しか持っていなかったのでプレゼントもしましてた。」


アンのことを思うと、心が痛かった。


「本来なら息子を叱責する立場なのに、、、息子の話を聞いて私もエミリー嬢が真の聖女だと信じ、ご息女に辛いを思いをさせてしまった。

本当に申し訳なかった。」


ずっと黙って話を聞いていた陛下が再度謝罪をする。


「陛下もう謝らないてください。

体調のほうはいかがですか?」


父が陛下を気にかける。


「瓦礫に潰され、竜の炎で死んだと思ったら次の瞬間にはベッドの上だった。

誰に話しても頭がおかしくなったと思われ、医者も呼ばれた。

体調不良ということにされ、部屋を出ることも出来なかった。

こちらに来るのが遅くなってしまった。」


誰だってパニックになるだろう。


「概ね、今日までの僕とエミリーの出来事はこんな感じです。

また思い出したことがあればお話ししたいと思います。」


長い長い殿下の話が終わった。


「アンを長い間待たせてしまっています。

また明日お時間を頂けますか?

今日はアンも呼んで婚約発見についての打ち合わせを行いましょう。」


父がそう提案する。


「陛下、殿下、どうかアンには事実は伝えないで下さい。

アンは巻き戻りに気づいていません。

ショックを受けたアンがまた倒れでもしたら、、、あの日の再来です。」


父の言葉に二人の顔が青くなる。


「わかりました。

この話しはこの4人だけの内密な物としましょう。

ロヴェイユの女神に誓います。」


こうして4人の秘密の会合一回目が終わった。



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