購買意欲
村上 耽美
第1話
最近よく見かける娘がいる。長い黒髪をひとつに束ね、地味な制服を纏っていた。単語帳を睨むその目ですら愛しかった。
たまたま駅の近くのラブホ街を歩いていた時、その彼女がサラリーマンと腕を組んで1軒に消えていった。
ほう、彼女は金で買えるのか。
大金を下ろした僕はその店の前に座り込んだ。
ちょうど2時間が経っただろうかという頃、彼女がサラリーマンとホテルから出てきたので僕は2人に見つからないように陰に隠れた。
「また来てね」
と、彼女の少し高い声が聞こえた。あぁ、この声で彼女は抱かれていたのかなんて卑しい空想を膨らませてしまったことに、少なからず恥じらいを感じたからか顔が熱い。
サラリーマンは駅の方へ早歩きで消えていった。彼女は見送ったあと一息ついてラブホ街のさらに奥の方へ身体を向けた。
よし、今だと言わんばかりに僕は彼女に声をかけた。
「あの、ちょっといいですか」
目をまん丸にして彼女は半身を切った。さらに僕は続けた。
「あなたを買いたいんです。お金はいまさっき下ろせるだけ下ろしてきました」
緊張していたのであまり覚えていないが、ありえない早さで喋っていたと思う。しかし彼女は満更でもない顔と、軽い語調で
「ホ別ゴ有の苺でいいですよ」
なんて笑顔で言い放った。苺の意味はよく分からなかったが、なんとなく察して軽く頭をさげた。
「ここじゃなんですし、ちょっと先のところ行きましょう」
彼女に強引に腕を組まれ、よろけた僕を彼女は少し笑って歩き出した。
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