第76話:付与魔法使いは圧倒する

「用意はいいかぁ? 決闘、始めぃ‼」


 そんなやり取りをしていると、すぐに試合が始まった。


「行くぞ‼ ヒャッハー‼」


 大きく地を蹴り、俺に斬りかかるシモン。


 ふむ……なかなか良い太刀筋だ。


 俺じゃなければ、この速さに対応するだけでも苦労するだろう。


 圧倒的な速さに加えて、確かな技術に裏打ちされた無駄のない剣技も兼ね備えている。


 セリアが出ても負けることはさすがになかっただろうが、僅かな判断ミスで窮地に追い込まれる展開もあったかもしれない。


 やはり俺が出て正解だったようだ。


「オラァ!」


 シモンは叫びながら、パワーの乗った一振りが襲ってくる。


 しかし、どれだけパワーが乗っていようとも、当たらなければ意味はない。


 俺は正確に剣の動きを予測し、ギリギリのところでサッと避けた。


「な、なに⁉」


 驚愕の表情を浮かべるシモン。


 だが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。


「ま、まあ……こういうことも百回……いや、千回に一度はある。だが、偶然はそう何度も続かんぞ?」


「さて、本当に偶然かな?」


 俺がニヤリと笑みを浮かべたと同時に、二回目の攻撃が俺を襲う。


 今度は、避けるのではなく、真正面から剣で応えるとしよう。


 キン!


 俺の剣とシモンの剣が衝突し――


「な、なに……⁉ お、俺の剣が……⁉」


 さすがは、ガイルが打った史上最高の剣だ。


 ヌルりとした感触の後、シモンの剣は真っ二つに折れてしまった。


 キン! ……という音は、剣が折れた際のものではない。


 シモンの剣の刃が地面に落ちた時のものである。


 俺は剣を突きつけ、問う。


「まだ続けるか?」


「い、いや……降参だ! レ、レベルが違いすぎる」


 シモンが白旗を上げたため、たった数秒の戦いで勝負が決まってしまった。


 俺としては楽な方がありがたいのだが、微妙な空気になりそうな気がしている。


 ……まあ、いいか。


「な、なんと……! 勝者、アルス・フォルレーゼ‼ か、彼は勇者と同じ名に恥じぬ冒険者だった‼ えっ、本当に勇者じゃないんですよね?」


 恐る恐る訪ねてくる主催者。

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