第39話:付与魔法使いは歓迎する
それから三十分ほどユキナに『お礼』と称した魔法の訓練をさせ、その過程でユキナは依頼分のサラマンダーを倒しきった。
◇
ベルガルム村への帰り道。
夕焼けが差し込み、辺りはやや暗くなっていた。
「アルス、いえ……みんな、ちょっといいかしら」
「ん?」
「どうしたのですか?」
返事をしたのはセリアと俺の二人だが、俺の肩で寝ていたシルフィも目を覚ました。
「もし良かったらなのだけれど、アルスたちのパーティに私を入れてくれるって話、お願いしても良いかしら……?」
今日ここに来た目的は、ユキナを悲しませる結果にはならないということを証明するためだった。
自分の目で見たことで俺たちを信頼してくれたのだろう。
「当然じゃないですか〜っ! 改めてよろしくお願いしますね!」
セリアがユキナの手を握り、笑顔を向けた。
「ユキナも新しいママになるんだね〜」
シルフィも受け入れてくれている様子だ。
まあ、あまり人間に興味がなさそうなのでどちらでも良いのかもしれないが。
「アルスも良いですよね?」
「当然だ。歓迎するよ、ユキナ」
俺がそう返事をすると、ユキナは肩の力が抜けたようだった。
「よ、良かった……。私、このパーティに貢献できるよう頑張るから!」
真っ直ぐやる気に満ちた瞳を向けてくるユキナ。
この様子なら、俺が求めている以上に活躍をしてくれることだろう。
「ああ、期待してるよ」
◇
ギルドに到着したので、早速依頼の報告をすることにする。
受付のカウンターにサラマンダーの討伐証明部位を乗せた。
「あれ? 今回は牙だけですか。珍しいですね」
「今日は全部を持ち帰るのが難しかったからな」
魔鳥狩りをした時にも討伐証明部位のみの持ち帰りだったのだが、その時は空を飛ぶ魔物を無傷で仕留めるのは難しいと説明したような覚えがある。
基本的には素材も売却してお金にしたいため、今朝のゴーレムのように持ち帰ることが多いので珍しいと感じさせたのだろう。
「ユキナに魔法を教えるついでに依頼をこなしたから、手加減して素材を残しておく余裕がなかったんだ」
「なるほど……アルスさんらしい理由ですね」
そんな会話をしながら、受付嬢はいつも通り手続きを済ませてくれた。
ギルドカードが返される。
「今回はギルドポイント150ポイントの加算です! ご確認ください。あと、こちら今回の報酬です」
「ありがとう」
ギルドポイントの欄を確認すると、『150/1000』となっていた。
この数字が1000に到達するとCランク冒険者にランクアップできるのだろう。
思ったよりも冒険者というのはすぐにランクアップできるんだな……と一瞬思ったが、今回のサラマンダー討伐依頼も実はDランクの中では高難易度だったことを思い出す。
普通はもっと時間がかかることなのだろう。
「あ、それとパーティメンバーを一人追加したいんだが、手続きをしてもらえるか?」
冒険者ギルド所属のパーティは、基本的にパーティメンバーが脱退したり、逆に新たに加わる際には冒険者ギルドに届出ることが常識になっている。
必ずしも届け出なければならないわけではないし、罰則はない。
しかし届け出をし、ギルド側がパーティ構成を把握していた方が信頼される組織になる。
ギルド側から信頼されれば、美味しい依頼を紹介されたりなどのメリットもあるようなので、何かやましいことがなければやっておくに越したことはないだろう。
「パーティメンバーを追加……もしかしてですが、新たに加わるのは……」
「ああ、ユキナだ」
「で、ですよね……! 驚きました……。まさか頑なにパーティ入りを拒んでいたユキナさんがパーティに加わるなんて……。セリアさんの時もそうでしたが、アルスさんはただ強いだけでなく、人を惹きつける力も凄いのでしょうか」
「いや、そんな大それたもんじゃないけどな?」
どうやら受付嬢に変な誤解をさせてしまったらしい。
俺は何も特別なことはしていないのだが……やれやれ、どうしたものか。
「あっ、パーティを追加でしたね。すみません、驚いてしまって。ではこちらで処理しておきますね!」
「書類とかはいいのか?」
「ええ。本当は要るのですがアルスさんたちにお手間をかけさせるのもアレですし、こちらで書き込んでおきますね。次いらっしゃった時に控えをお渡しします」
「そうだったのか。助かるよ」
それにしても、だんだんと扱いが良くなっている気がするのは気のせいだろうか?
実力以上の評価を受けている気がしてならない。
まあ、俺たちには好都合なのでどうでもいいことか。
◇
ギルドを出た後、冒険者ギルドの近くにある食堂で夕食を済ませた。
あとは寝るだけなのだが、そういえばふと気になったことがあった。
「そろそろ宿に戻ろうと思うんだが、ユキナはどの宿に泊まってるんだ?」
「私は、今朝でお金が足りなくて更新できなかったの。荷物だけ預かってもらってはいるけど……。だから、どこの宿にも泊まっていない状況ね」
「そうだったのか。それなら、俺たちが泊まってる部屋に来るか?」
「いいの? ……っていうか、セリアと同じ部屋に泊まっているの?」
「ああ、セリアの強い要望でな。お金の面でも節約になってる」
「そ、そう……。でも、泊めてもらえるのは助かるわ。お願いできるかしら」
何か言いたげな様子だったが、受け入れているということは問題ないのだろう。
「ちょっと狭いですけど、部屋が同じ方が楽しいですしね! 私も歓迎です!」
ということで、話がまとまった。
まずは残してきたという荷物を取りにユキナが泊まっていた宿に向かう。
路地裏を横切ろうとした時だった——
「おい、お前がアルス・フォルレーゼか?」
暗闇から突然、黒ずくめの男たちが三人出てきたのだった。
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