第18話:付与魔法使いは治癒する

 俺は、二人組の冒険者たちに話しかけた。


「ん、どこかで見たような顔だな……? ドワーフ族のことが気になるのか?」


 勇者時代の俺をどこかで見かけたことがあるのか、冒険者たちは思い出せそうで思い出せないような不思議な表情をしていた。


「ああ、強い剣が欲しくてな……。さっきそこの武器屋を見てたんだが、どれもピンと来なかったんだ」


「なるほどな。まあ、本当に良い武器となると武器商が来た時に買うか、王都に行くか、特注するかしかないからな。俺たちもそんなことを思って名工と名高いガイルの工房に行ったわけだ」


 どうやら、ある程度の実力を持つ冒険者になると考えることは同じになるらしい。


「まあ減るもんでもねえし教えるけどよ、何言っても作ってくれないと思うぞ。俺が認めた奴にしか作らねえ——なんて言ってたからな」


「その認める基準ってのも剣の技術じゃないんだからもうお手上げだよな」


 二人の冒険者は口々に諦めの言葉を口にした。

 話を聞く限り、なかなか件の鍛治師は堅物な人物のようだ。


 要求するものを提供すれば仕事を引き受けてくれるようなビジネスライクな職人だと話は早いのが、こういったタイプは確かにどうすれば良いのか困ってしまう。


「一応これが地図だ。現地まで行けばすぐにわかる」


「ありがとう。助かるよ」


「まあ頑張ってみろ」


 こうして、気の良い冒険者から工房の場所を教えてもらうことができた。


「アルス、工房にはいつ行きますか?」


「今日はもうすぐ日が暮れるし、明日の方が良いだろうな」


 昼過ぎに村に帰ってくることができたが、それからなんだかんだで依頼の達成報告や、この武器屋で剣を物色している間に時間が経ってしまった。


 一刻を争うわけではないので、明日でも問題ないだろう。


「わかりました!」


「じゃあ、帰りに食堂でご飯を食べて……それから宿に戻るか」


 方向性が決まったところで、武器屋の前を離れて俺たちは食堂の方へ向けて進む。

 その途中のことだった——


 ドンッ!


 と音がしたので振り向いた。


「おい、痛えじゃねえか!」


「す、すみません……」


 大柄の冒険者と12歳くらいの小さな女の子が曲がり角でぶつかってしまったようだった。

 どちらが悪いというわけではなく、ちょうど死角だったらしい。


 体格差が大きいため、女の子の方は後方に吹き飛ばされ、尻餅をついていた。


「前ぐらいちゃんと見て歩きやがれ! ペッ!」


 冒険者は唾を吐き捨て、その場を去っていった。

 女の子が避けなかったことに腹を立てているようだが、さすがにあれはないだろう。


 はぁと嘆息する。


「大丈夫か? 結構大きな音がしたんだが」


「え、ああ……うん、大丈夫。転んだだけだから……」


 と言いながら立ち上がるが、擦り傷ができてしまっていた。

 患部は青くなっており、痛みを我慢していることが伝わってくる。


 幸い骨が折れていることはなさそうだが、治るまで時間がかかってしまうだろう。


 見てしまったものは仕方がない。


「ちょっとだけジッとしてろ」


 俺は付与魔法で女の子の傷を癒した。

 回復魔法と結果はよく似ているが、それとはやや過程の部分が異なる。


 回復魔法は自然治癒の速度を加速させるのに対して、俺の付与魔法による治癒は傷を元に戻すという性質を付与する。

 そのため回復魔法では傷が残ってしまうこともあるのだが、俺の付与魔法ではそんなことは起こらないのだ。


 数秒で治癒が完了し、傷は跡形もなく消えた。


「あ、ありがとう……! あなたは……?」


「どういたしまして。名乗るほどの者じゃないよ、ただの通りすがりの冒険者だ」


「ぼ、冒険者にもいい人いるんだ……!」


 どうやら、この口ぶりだと冒険者はよく思われていなかったようだ。

 冒険者にも色々な人間がいると知ってもらえたのは良かった。


「じゃあ、気をつけて帰れよ」


 俺はそう言い残し、その場を後にした。


「アルス、かっこよかったです!」


「そうか?」


「はい、やっぱりアルスはアルスですね!」


 なぜか、あの女の子を助けたことでセリアの俺を見る目がさらに輝くものになった気がする。

 いつも通りにしているだけなのになぜこうなるのかよくわからないのだが……。


 そして余談。

 情けは人のためならず——なんて言葉があるが、まさかここでこの子を助けたことが、後になって俺たちに返ってくるとは思いもよらなかった。

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