すれ違い

はいチーズ!

写真を撮る時に大体の人がこれを使うと思う。

俺とアカリの間にこの会話はなかった。

詳しく言うと俺が撮ろうとすると断られた。

昔写真で嫌なことがあったみたいで、俺もそれを了承した。正直この可愛くて可愛くて可愛すぎる彼女を自慢したくてしょうがなかった。

まあこんな可愛い彼女を得られただけ幸せに違いない。よくまあこんな美人捕まえられたと自分でも褒めたくなるよ、フフフ。

「んで?今度は写真撮りたいだ?」

タツのあからさまに呆れた顔の前で俺はニコニコとしていた。


回想いくよー

3日前

倒れてる(フリ)の元に彼女のアカリが訪れた。心配してくれるかなと期待していたのも束の間、肩を持たれぐわんぐわん。慌てて止める俺を見て「やっぱ寝たフリか」と一言。普段は大人しい女の子なのにたまに鬼嫁のような行動に出ることがある。嫁。嫁かーフフフ。と脳内お花畑の俺は一瞬胸を刺される。

「喫茶店のそばにいたよね?」

「え?」

尾行していたはずが見つかっていた?よくよく思えば、あの時はショックで去り方を覚えてない。もしかして普通に帰った?そんな凡ミスする?何をどう返そうかあたふたしていると彼女が続けた。

「もしかしてあれを浮気と勘違いして、それでぼーっとして怪我したのかと心配した。

まあ、仮病みたいだけど。」

その嘘はバレバレだぞとばかりのドヤ顔とその後の華やかな笑顔は窓際のピンクの花より綺麗だった。


そしてあれほど騒いだ本人が数日後、目の前でニヤニヤしていたのだからタツの反応も分からなくはない。

「写真なんて撮ってくださいで終わりだろ、んなもん。」

「そんな単純だったら苦労しないわ!」

「大体なんで写真嫌がってるのか分かってるのか?」

「知らねーよ」

「じゃあそっからだろ」

店の自動ドアが開き、チャイムがなる。

おつかれと一言、店長の登場。

ここはLUCKYではございません。カラオケボックス「ビートワン」我々のバイト先である。

そうそしてバイトにも関わらずペチャクチャ喋ってたのである。そして今日もそれを誤魔化すために店長に話しかける。がこいつがまた無愛想で、最近ではちょっとは話しかけてくれるが仕事しろと突き返される。(当たり前)

この店土日はそれなりに忙しいが、平日はすごく暇だ。喋らないとやってけない。

店長は仕事を30分くらいで終わらし、本社の方へ戻った。

よし、すかさずタツに声をかける。

「ちょっと歌ってきたら?」

「バレたらクビじゃすまねーけど?」

「安心しろ。俺を誰だと思ってる。」

俺の親指のたくましさにタツも観念したらしい。暇だしいっかと言って行くタツを待つこと数十分。元気よく伝える。

「ってことで俺もー」

「だろーなー。まあ任せろ」

タツ指くんの元気はなかったが大丈夫だろう。

何を隠そうバレたら彼もクビなのだから。

カラオケルームに着くと俺はすかさずサチに電話をかけた。サチは俺のためにある極秘ミッションへと旅出ていた。


11時にバイトを終え、タツの車で家まで送ってもらう。バイトの時は親の車で来てるらしい。羨ましい。

「んじゃ、今日あざす。お疲れ様」

「お前さー」

「ん?」

「あ、いや。明日休みよなって思って。そんだけおつかれ。」

社畜タツさんは明日もバイトのせいか意味深に帰っていった。そしてそのタツの車を見送って、サチのもとへ向かう。

「電話でも伝えたけど間違いないみたい」

そう言われると2人でサチの家まで歩きながら話した。

「タツには言わなくていいの?」

「タツには関係ないしな。アイツに申し訳ないし。それに俺らだってまだよくわかってないだろ。」

「そっか」

サチを送り届けた後、一人で音楽を聴きながら帰った。アカリと付き合ってから浮かれた恋愛ソングばかり聴いていたから、しんみりしたのは久しぶりだ。世でいう病み曲と言われるものに属するだろうが別に病んでいる訳では無い。大体こういった歌には『世界がおかしい』的な歌詞がよくあってそれが好きだ。その歌を聴きながら星空に問う。

『人はなんのために生きるのか』と。

今日は曇りなのだろうか、上には暗闇が拡がっている。


次の日、久々に一人カラオケにきた。気分転換に昨日聞いたものばかり1人で熱唱する。聴く時はエンディング、歌う時はオープニングのような同じ曲でも何か世界線が違う気がする。歌詞は病んでるのに曲調はバンドのそれで歌ってて気持ちいい。少しでも冷静になるんだ。明日のために。休憩がてらドリンクバーをつぎにいくと、店員から声をかけられた。

「なんか病んだ曲ばっか歌ってんな。」

「音漏れしてんのかよ。やば。」

店員はタツだ、俺は自分のバイト先に歌いに来たのだ。

「病むようなことでもあったか?」

「いや別に、気分転換だよ。あーゆー歌普通に好きだし。」

「一応イツメンだからな。ビミョーな嘘はなんとなーく分かるぞ?」

そりゃそうか。高校からずっと一緒にいて、何かある度に集まって、あれか親友ってやつか。

そうちょっと感動しかけたはずなのに、言葉に出たのはそれとはまるで逆だった。

「お前には関係ないだろ」

なんでそう言ってしまったのは自分でも分からない。親友を巻き込みたくないという理性なのか。なんとなく関わって欲しくない本能なのか。

「んだよ。その言い方。」

そこからしばらく言い合いになった。思ってもあることないこと、べらべらと並べ合った。

タツじゃない方の店員が店長を呼び、同じバイトということもあり、宥められその場を終えた。シフトを合わせないようにするか聞かれたが、気にしないと答えた。


自分の中から余裕がなくなっているのに気がついたのは、家に帰ってからだ。どうやって家に帰ったのかもあまり覚えていない。帰ってサチの連絡を見て明日のことを思い出した。タツとの喧嘩が大きなことになっていたが、それよりも大きくて謎めいていて不安なことを思い出してやっと冷静になれた。もしかしてタツの作戦なのかな、なんて思ったがそんなわけない。

今度謝んないとな。でもごめん、タツ。

これは言えないんだ。言っていいのか分からない。言ったところで信じて貰えるか。

俺とサチが調べ始めたのは、

『岸本アカリ死亡説』。



to be continued

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