-6-
「フラウ、手を出すなよ」
「わかってるって」
偵察……と言うよりも観察がフラウの役目。今はね。
あの冒険者たちには申し訳ないけど、火中の栗を進んで拾うつもりは全く無い。
火の粉が掛かって来たら当然、振り払うに決まってるが。
御者が馬車の速度をゆっくりと落しているから懸念する事は無いと思う。少しだけ目的地に到着が遅くなるだろうけど。
「ねーねー。あれ、危なくない?」
「どれどれ?」
フラウが屋根の上から室内を覗き込みながら僕にそう伝えてきた。
どれどれ、と
俗に言う仲たがいって奴か?
あっ!後ろの二人が転んだ。
仲間に攻撃されるとは思わなかったんだろうな。
今まで仲間だったんだから一緒に逃げる、僕もそう思っていた。
だけど、あの二人は仲間に裏切られた。
今は悔しい気持ちでいっぱいだろう。
そして間もなく、
そうなればあの二人の命も風前の灯。
あっという間に命を刈り取られてしまうだろう。
残念だけど、僕たちは助ける事は出来ない。
乗合馬車が襲われてもっと犠牲者が出るかもしれないし。
あの二人の冥福を祈ろう。
だが……。
「ねぇねぇコーネリアス。
あれ?何だろうか。
一般的な考えでは、四人逃げてて二人が遅れたらそっちに標的を移すはずなんだよね。
でも、
そうなると、
何をしたのかは定かでは無いが、危険度は一段下がった事だけは確かだ。
後はあの二人がこちらで向かって来ない事を祈るだけ……。
ってそう思っていたらこっちに向かって来たよ。
まだ距離が
さてどうするか……。
僕が思案のしどころだと考え始めたが、それよりも早くフラウが行動を起こした。
走る冒険者たちの目の前に矢を打ち込んだのだ。
警告や威嚇の意味を込めてだ。
フラウの腕だったら後ろを気にしている冒険者を射貫くなんて簡単だろう。
ヘッドショットは無理だろうけど、胴体に一矢当てるくらいはね。
「お前ら!こっちに来るな!」
怒り心頭、そんな光景が目に浮かぶほどフラウは怒りを孕んだ怒声をあの冒険者たちに向けた。
と言うか、それで諦めて他に行ってくれればいいけど……。
「やい、てめえら!この状況でも助けるって思わねぇのか?」
矢を射かけられ、土ぼこりを上げながら急制動を掛ける二人の冒険者。彼らの手前に刺さった矢がどんな意味を持つのか理解しているみたいだ。
でも、彼らが行った自分勝手な行動は知らんぷり。流石にアレを見て手を貸そうって気持ちにはなれないよ。
僕もフラウの意見と同じだし、車内を見回してみればフラウの言葉に頷くのが大半だ。頷かないのは図太い神経を持っていてスースーと寝息を立てている乗客だけ。
僕はフラウに加勢しようと客室のドアを開き、そこから半身を出して剣を高く掲げるのだった。
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