-52- クリガーマン教授4(2/2)

※:いろいろと設定をいじっていて本分を書くのが遅くなって申し訳ないです。

  



 一枚だけの書類。

 書類と言うと大げさかもしれないが、私から言わせれば立派な書類だ。

 ただ、惜しむのは持って帰ることは許されない事だ。

 一番上に”シークレット”の文字が大きく記されているのだから仕方ない。

 恐らくだが、私が見た後、この場で焼却処分されると思う。

 金属製の深皿が傍に置いてあるのがその証拠だろう。


 その書類、”シークレット”の文字の次には小説の文言と、私が解読した古代文字が記されている。

 私が解読した古代文字は何となくわかる。

 だが、小説の文言は何なのかと訪ねたくなる。


 だが、その先にもレポートが記されているので、質問は後回しにして最期まで目を通すことにした。


 そして、後半には私の知らぬ事実が記載されているのだから驚きだ。


「魔法陣が稼働しただと?」


 そう。

 私もこの目でしかと確認したあの魔法陣。

 円を二重にしただけのシンプルな魔法陣だった。

 古代の打ち捨てられた遺跡に残されていただけだったので、すでに役目を終えて動くことは無いと思っていた。現に私があの上に乗っても何もならなかったからな。

 だが、ヴィリディスの報告では、ゴブリンと言う矮小な魔物が魔法陣に足を踏み入れた途端、稼働したとある。


 そんな馬鹿な。


 誰だってそう思うだろう。

 しかし、彼が面白半分に嘘を私に言うなどありえない。

 手伝いをしてくれた事があり、彼の人となりを多少知る私としては研究に対して嘘を口にしたことは一度もなかった。元々、口数は少ない事もあるが。


「闇属性魔法?」


 さらに明らかになった事実。

 教会が光属性魔法を使用するのはすでに聞いた。

 それに対をなす、闇属性魔法が彼の目の前で発動したと言う。

 あの魔法陣が矮小なる魔物、ゴブリンに対して発動し、闇属性魔法を付与したという。

 その効果はゴブリンが本能的に使用する身体強化魔法を使えなくした。私に言わせれば封印したと言うべきかもしれないが。

 効果を確かめるとその結論に至ったという。


 闇属性魔法がこの世に存在するとして、何故、世間一般には広まっていないのだろう?

 不思議だ。


 と、私はここで報告が終わるのかと思った。

 だが、その続きがあった。


「ゴブリンに闇属性魔法が発動して、なぜ、我々には発動しなかったのか、だと?ふむ、確かにそうだな……」


 問題を提起しているが、結論を出すまでには至っていない。

 そこで、この書類は締められている。


「……」


 その書類を一読した。

 余りの情報量に私は無言のまま天を仰ぐしかなかった。

 私の研究が否定されなかったのはホッとしたが、その先に隠された真実が余りにも大きすぎる。

 このままでよいのだろうかと不安が脳裏を過る。


 何の不安が脳裏を過ったか?だと。

 それは簡単なことだ。

 世界的な組織の教会が神の奇跡と称して光属性魔法を使っている。

 そして、対になる闇属性魔法が存在している事。

 私たちは何故、光属性魔法と闇属性魔法を知らないのか?


 また、古代の遺跡に残された魔法陣は魔物に効果があって、人には効果がないのか?

 そして、何が目的であの場所に魔法陣を残していたのか?

 私の研究は今、始まったばかりと言えよう。


「ふむ、非常に興味深い内容であった」


 渡された書類を一読した私は、惜しみながらそれをヴィリディスに返した。

 このまま懐に入れてしまいたいと思ったが、また教会がらみになる可能性が非常に大きいだけに、さすがの私も理性が勝って返却せざるを得ないと思った。


「疑問はまだ残っているのですが、俺からの報告は以上です」


 ヴィリディスはそう言うと金属製の深皿に書類を折りたたんで乗せると、火魔法を使ってあっという間に灰にしてしまった。

 なんと勿体ない事か……。


 今日の事を考えると、以前の延長で遺跡の調査をしても何もわからないだろう。

 教会が絡んでおり、尚且つ、我々の知らない魔法が残されているのだから。

 だから、新しい研究を、研究対象を模索する必要がある。


「わかった。今日は報告会はこのくらいにして、食事を楽しむとしようか?」

「ええ、それで結構です」


 私たちはその後テーブルに並んだ料理に舌鼓を打つことになる。

 そして、再び彼らに仕事を依頼することになるのであるが……。

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