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「ゴブリンは黒いモヤに覆われて身体強化魔法を使えなくなったけど、何で僕たちは平気なの?」


 僕の脳裏に浮かんだ素朴な疑問。

 三回もあの魔法陣と言われる黒い二重の円を踏んでいる。

 デマでも何でもなく、事実だ。

 僕だけじゃない。

 ヴィリディスもフラウも三回乗っている。

 それに加えて一回はこの遺跡調査を依頼してきたクリガーマン教授も踏んでいる。

 忘れてはいけないのが、あの時連れていた兵士達だ。彼らのうち何人かは同じように魔法陣の上に乗っているはず。


 それなのに、だ。

 魔物は魔法を使えなくなったが、僕たちは何にもなっていない。

 おかしいじゃないか?


「……」


 いや、さぁ……。

 そこで無言にならなくても良いじゃないか?

 素朴な疑問に何か答えて欲しいんだけど……。


「……そう言えばそうだな。なんでだ?」

「あれ?」


 えっと、ヴィリディスもわからないって事?

 それじゃ、僕なんかもっとわからない。


「あの魔法陣に乗ると、魔物だけ”闇属性魔法”が発動するのか?」

「たぶん違うだろう。あの魔法陣に魔物や人を区別する高い性能は無いと思う。というか、魔法陣には基本的に一つしか役割を持たせられない筈だから……」


 ん?魔法陣には一つしか役割を与えられない?

 でも、それっておかしいよな。

 僕の業物の剣には魔法陣を刻んだ魔石が埋め込まれている。

 発動すると薄く光り、鋭さを増すようになる。

 これって二つじゃないのか?


 それをヴィリディスに問いてみると……。


「鋭さを増す時の効果を現すのがあの白い光だから、一つだぞ?」

「そうなんだ……」


 うん、違ったらしい。


「まぁ、何にしても、あの魔法陣には”闇属性魔法”を発動させて魔法を封じる働きがある事だけはわかった。後は、どの魔物でも魔法陣が働きだすかどうか……だな。今後の研究が待たれる」

「って、事だな」


 結局のところ、ヴィリディスにも魔法陣が働くかどうかの謎は謎のままと言う事に落ち着いた。

 今後はクリガーマン教授のいる王立高等教育学院に帰り、研究してもらうしかないのだろう。


「二人共、そんなこと話してないで早く仕事をしちゃってよね。いい加減、お風呂にも入りたいし、その……」


 謎をそのままにしておけないと僕とヴィリディスで意見を出し合っていた。

 だけど、フラウはそれが不満だったらしく、話がひと段落したときに、わざわざ話の腰を大きく折ると言う暴挙に出てきた。

 暴挙というと語弊があるかもしれないが、放って置かれてブスッとした表情をみせていた。それは彼女の機嫌が悪い証拠でもあった。


「放っておいてゴメン!」

「だな。話しをしないで手を動かそう。さっさと終わらせて帰り支度だな。ゴブリンの処理は任せたよ」

「任された。フラウは周囲の警戒ね」

「やっとか。コーネリアス、街に行ったら、少しは相手してよね?」

「わかってるって」


 口だけしか動かしていない状況から、フラウに発破を掛けられヴィリディスは遺跡の調査の続きを、そして僕は倒したゴブリンの処理を行う事になった。

 話しに入れず仲間はずれで放っておかれたフラウは労働は免除になって警戒任務のみのお仕事だ。


 この後、ゴブリンが三度襲ってくるかと思ったが、手下があっという間、--瞬殺と言った方がいいだろう--、に倒され敵わないとわかったらしくゴブリンどころか魔物の姿自体も見る事は無かった。


 もしかしたら、瞬殺された事よりも、ゴブリンが固有で使っていた身体強化魔法を使えなくなった事の方が大事だったのかもしれない。

 が、ゴブリンの思っている事などわかる筈も無く、予想の範囲を越える事は無かった。


 魔物が現れなかったおかげで夕方にはヴィリディスの調査は全部の項目が終わりになり、もう一泊するために昨夜と同じ場所にテントを張るのであった。

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