-20- ハンネマン老人 1(1/2)

 旅の途中、うっかりと共とはぐれてしまった。

 何台もあるうちの一台に乗ったら別の行き先だったので戻ってきたが供の物はおらず、途方に暮れてしまった。

 まぁ、行き先と何かあった時の合流地点を決めていたので何とかなるだろうと楽観的に旅をつづける事にしたのじゃ。


 と言うのは建前で、供のいない一人旅ってのをしてみたかったのじゃよ。

 え、おまえは誰だって?

 ワシは越後のちりめん問屋の隠居でミツエモンと申す。

 と言うのは嘘で、フィナレア公国のとある商店の隠居でハンネマンと申す。

 供を連れて旅の途中と思ってくれて大丈夫じゃ。


 で、越後のちりめん問屋ってのはワシにもわからん。

 何でそんなのを知っているかと言うと、ワシの国、いや、出身の国、フィナレア公国は海運に秀でている国で遠い国と貿易を行っておる。その貿易相手の国で流行っているのが、君主の右腕ともいえる相談役が身分を隠して、二人の供と諸国を旅して、行く先々のトラブルを解決して行く物語なのじゃ。

 その主人公、まぁ、老人なのじゃが、その設定が越後のちりめん問屋の隠居なのじゃ。それを言って見たかったのじゃが……。フィナレア公国以外ではまだ知られていないようでポカンとされてしまったのじゃよ。

 ワシ、少し寂しい……。


 そんな旅の途中、三人組の若者と出会った。

 風体からして冒険者なのじゃろう。国を跨いでの依頼とは大変じゃのう。

 ま、予想じゃがな。


 そのうちの一人、コーネリアスと名乗った若者と話すことがあった。

 馬が合ったのか、ワシに同情してくれたのかはわからんが。

 まぁ、暇つぶしとでも思った事にしておこう。


 この若者、剣を二本ぶら下げていて面白いと思った。

 ワシは武芸の事などわからんが、それでも面白いと思うのだから、見る人から見れば面白い逸材なのじゃろうな。


 剣を二本ぶら下げていると言ったが、そのうち一本は使い込んだ剣で良く手になじんでいるのだろう。持ち手の革は何回も巻き直しているようだ。

 そして、もう一本。これはワシは価値がわからんかった。確かに光り輝いているようにも見えるが、質実剛健と見て取れるような外観もしているのじゃからな。


 それと若者の同行者も少し話しおくとしよう。

 一人は杖を手にした二十代前半の若造じゃ。

 剣をぶら下げてはいるが、どちらかと言えば魔法を得意としている風体をしておる。時折、鞄から魔法関連の書物を出しては読んで暇を潰しているようじゃった。

 見た目は魔法を得意としているようで優秀そうに見えるが、対人関係を構築するのは苦手と見た。

 うつむき加減で陰気なのがその一端じゃろう。

 まぁ、優秀そうだからまだ良いが……。


 もう一人、恐らくコーネリアスのお相手になるのじゃろう、弓を持った娘っ子じゃ。身長はそれ程ではないが、周りの目をあまり気にしない性格はコーネリアスと合うじゃろう。

 ただ、少しばかりガサツなのがコーネリアスには合っていない気がする。

 馬車内でずっと口を開けて寝てばかりなので、彼女がどれだけ優秀かわからんが、そこそこ優秀なのじゃろう?


 三人の若者……ワシから見たら皆、若者じゃな。

 その三人が実力を見せたのは乗合馬車に乗り二日目の午後。

 森の中を突っ切るように作られた街道を通っていたときに遠くに魔物に襲われていた馬車を見つけた。見つけたのは御者じゃったが。

 本来、助けに行くなど馬鹿のする事じゃ。まず自分たちの身を守のが先決じゃからな。


 襲われている馬車を見れば幌馬車の類。

 食料かなんかを運んでいるのだろう。

 ただ、魔物に襲われている所を見ると肉系の保存食と言った所じゃろうか?

 干し肉やジャーキーもしっかりと作られていると旨いんじゃよな~。

 っと、よだれが出てしまう。


 護衛も居たことだし放って置けば荷物を奪った魔物は何処かへ行くと思っていた。

 じゃが、魔物はワシら、乗合馬車を見つけた途端、襲い掛かってきたのじゃ。

 人を食料と見定めたらしくな。

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