-42- トロール狩り14

「魔法を撃ちまくれ!」


 トロールとのきつい戦いになりそうだと僕が気合を入れたその直ぐ後、隊長の号令が掛かった。

 前衛に出ているのが兵士たちなので彼らが攻撃の先手を取るのは当然なんだけど、トロールと認められた瞬間に攻撃しだすのは如何なものかと思うのだけど?

 まぁ、それでトロールが倒れてくれるんだったら願ったり叶ったりだから……ねぇ?


 これが最後だと大盤振る舞いで”火矢”が飛んで行く。

 ”威力よりも数だよ!偉い人にはそれがわからんとです!”と言わんばかりに無数の魔法が飛んで行く。精度はトロールに当たれば御の字、外れても石造りの建物はびくともしないとなればこうもなる。


 ただ、僕の隣のヴィリディスは顎に手を当ててぶつぶつと何かを唱えるように見ている。たぶん、魔法の精度が悪いとか、当てる場所が悪いとか、そんな事を思っているのだろうな。


”ぐおぉぉぉーーーーーーーー!!”


 魔法が途切れた瞬間、トロールが怒りの声を上げた。

 うん、怒ってるよね。


「ヤッパリ怒るよねぇ?」

「だろうな。起き抜けに家の前に人が集まり、何もしてないのにいきなり攻撃を仕掛けてくるんだからな」

「たぶん、違うぞ?」

「え?」


 人としたら起き抜けに暴力を振るわれたら怒るのは当然だと思う。

 でも、ヴィリディスの考えは少し異なるようだ。


「起きて食いもんがなかったから怒ってるんだろうよ」

「あ、そっち……」


 トロールは空腹で怒っている……らしい?

 まぁ、何にせよ怒っているのは確定な訳だし、倒さなきゃいけないよね。

 この遺跡を調査するには。


 それにしても魔法の攻撃は効いてない気がする。

 って、フラウも攻撃?

 止めておきなさいって。


「えいっ!」


 魔法兵の攻撃の合間にフラウが矢を射掛けた。

 巨体のトロールに向かって一直線。狙いは頭みたいだけど魔法を食らっているトロールはふらふらと揺れ動く。そうなれば当然、ヘッドショットは望めない。

 フラウが射掛けた矢はトロールの肩に命中……したが、カツンと弾かれてしまった。


 えっと、トロールってあんなに固い肌してたっけ?

 今まで戦ってきたトロールでフラウが放った矢が刺さらなかった個体なんていなかったはず。肩の骨に当たって弾かれたのか?

 流石に予想外だな、この結果は。


「攻撃隊、二つに分けるぞ!A隊は正面のでかい奴を、B隊は後ろの小さい奴を攻撃だ!魔法兵はそのまま援護を続けろ」

「「「「「「おおぉーーー!!」」」」」」


 フラウの攻撃が合図になったのかは疑問だが、そのタイミングで兵士たちは隊を二つに分けて二体のトロールに向かって行った。少しだけ巨体のトロールの方へ人数をかけている。


「とりあえず、僕たちは現状維持って所かな?」

「そうなるな」

「なんか、ワタシ、良い所ない……」

「それは仕方ないだろう。こんな時もあるさ」


 弓による援護が無駄と判った途端、フラウは”ズーン”と暗い表情になってしまった。

 僕はそんなフラウに優し声を掛ける事しかできない。

 でも、フラウが完全に足手まといだったら連れてきてないから安心はさせたいとは思うよ……。こんなトロールと戦う状況じゃなかったらね。


 おっと、槍持ちの兵士が突撃した。

 だけど、余りにも硬いトロールの皮膚には効果が薄いようだ。

 ほら、フラウ。兵士たちの槍だってあんな状況だ、元気だしなよ。

 そう思いながらフラウに視線を向けると、それを見ていたらしく元気を取り戻しているようだった。

 とりあえず、一安心。


 だけど、あのトロールを倒すには生半可な普通の武器じゃかすり傷すら与えられないな……。 あれ?

 って事は僕の出番?

 矢面に立たなくちゃいけない?

 仕方ない……。


 仕方ないのか?

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