-10- バシル1-3(3/4)
ヴィリディスから聞いた遺跡を調査し終えた俺は慎重に森の中を進み、ウェールの街に戻っ……る前に中間地点のレスタートンの街へ立ち寄った。
この街に何があるって訳じゃないが、野暮用で寄っただけだ。
そうそう、森の中では身を隠すために土色のローブを纏っていたが、街道に出るにあたり紺色のローブに着替えているからよろしくな。
何故?ただ単純に土色のローブってのは見ない色で目立つからに過ぎない。
街の中に入って目立ってしまったら俺の職業的に駄目だからな。目立たないのが一番さ。
紺色も目立つんじゃないかって?これがね、目立たないんだ。
暗い色のローブが流行っているからってのもあるけど、みんなこの無難な色を選ぶから目立たない……と言うよりも気にされないって所かな?
この街で用があるのは冒険者ギルド。
ここは手紙を届けてくれるサービスも行っている。いや、サービスじゃないな。こっちが依頼料を払って届けてもらうんだからな。
仕事を仲介する冒険者ギルトは信用第一。手紙を届けるのも一緒で信用第一。だから請け負ってると言ってもいいだろうな。
「おっと、先に手紙を出してしまわないと……」
ここまでの道中、かがり火を頼りに手紙をしたためたが、読めるだろうか?
かがり火はゆらゆらと揺れ動くから文字がぶれて見えるんだよな。それ故読みにくくなることが多々ある。
昼間に書けばと思うだろうが、事情が事情なだけに人に姿を見られたくないのだ。だから仕方なくかがり火を頼りに書いたって訳だ。
まぁ、何処かに隠れて書いても良いんだけど、出来るだけ急ぎたかったってのもある。
手紙だけだったらそこまで時間は掛からなかったが、あの資料を一緒に同封するのに説明文もしたためる必要があったからな。
夜の休憩中に書くしか無かった。
さて、そんな手紙もカウンターへ提出し、料金を払えばそれで済んでしまう。
宛先は王都にある”王立高等教育学院”のクリガーマン教授宛てだ。
ヤツとは面識はあるが、そこまで知った仲ではない。
ヴィリディスは奴の下で手伝っていた事があるらしく顔見知りにまでなっているらしいがな。
その伝手で俺も知り合ったって位だ。
よくいるだろう。
知人だと言われたけど、聞いてみれば知人の知り合いの友人の兄弟だった、とか。
それって、他人って言うんだろう。
って、ヤツ。
クリガーマン教授ってのは、教会の連中以外では遺跡調査の第一人者を自負しているらしいから、今回の手紙を送る相手としてはぴったりだろう。
それにしても、何故教会の連中は遺跡の調査などしているのだろうか?
俺も遥か昔に祝福の儀を受けたが、不思議な力を持っているのだけはわかる。
もしかして、神から遺跡調査を命ぜられた?
う~ん、あまり考えたくも無いが……。
お布施として集めた資金を遺跡調査に投じるのはどうなのかと思わない事も無いが。
それはともかく、オレの仕事は終わったから帰るとするか。
久しぶりに慣れたベッドで惰眠を貪りたいぜ。
なんやかんやあったが、俺はレスタートンの街で一泊して、ウェールの街に戻ってきた。
今は自宅のベッドで一休みしている所だ。
食事も終わったから後は寝るだけだ。
戻って来たばかりで予定は無い。
尤も、予定が入っていたらベッドでひと眠り、なんて出来ないからな。
夜半には出かけなくてはならないからな。
俺もそろそろ歳だ、引退したいとも考えている。
四十を越えて身体にガタが出始めてきた。
後進の指導をしているが、どうもねぇ……。
有望なのはいるが、まだまだなんだよなぁ。
オレの後継者を名乗らせるのは……。
まぁ、今日はゆっくりするさ。
荷物を片付けながらな。
そんな事を思いながら鼻歌交じりに外出時に使った荷物の整理を始める。
すでに日が暮れているからテントなどは干せないが、使った道具はメンテナンスをしないと行けない。
それにしてもこのナイフは使わなくてよかった。趣味に仕事を持ち込むほど俺も馬鹿じゃないからな~。
「……と言うか、この気配は何だ?」
俺は荷物整理を一旦止めると、件のナイフを腰に差し、真っ黒のローブを羽織ってこっそりと裏口から家を出たのである。
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