-Flag Wars-

KOYASHIN

第1旗:Flag Wars

20XX年の7月。もうすぐ夏休みも間近のとある暑い日。

突如、目の前が真っ白になり、前の方に黒いフードを被った人間が立っていた。顔を見ることはできない。周りは、真っ白な空間...

その中、美濃藤ミノフジ高校2年の創科太郎ソウカタロウは、なにがなんだが分からず、周りを見渡す。

先程まで、普段の教室で授業を受けていたはず....

その空間に来たのは、彼だけではない。

一緒に授業を受けていたクラスメイト、他のクラスの生徒、教師もいる。

全員、なにがなんだか分からず、立ち尽くしている。中には周りの友達と叫びあっている生徒もいる。

教師たちも、訳がわからない中、叫んでいる生徒に「みなさん、落ち着いてください!」

そう声掛けしている教師を何名か見受けられる。

すると、黒いフードを被った人間が口を開いた。皆は、やっと黒いフードの存在に気づいたのか、目を向ける。

声質は、明らかに男性の声。しかし、温かみなどはなく、機械的な淡々とした口調で述べた。

「皆さま、コンニチワ。ようこそ。皆さまには。

これから旗を。争ってイタダキマス。」

そう言うと黒いフード男は、指をパチンッと鳴らす。

それに応じて、黒いフード男の背面に映像が映し出された。

そこには、円形の陸地の3D写真。

しかし、こんな綺麗な円形の陸地は見たこともない。

山あり、谷あり、川あり、湖あり。

大きさは尺がどれぐらいなのかわからないので正確には不明だが、そこまで大きくは無さそうだ。

黒いフード男は、続けて言う。

「皆さまには。真ん中にある旗を取り合ってイタダキマス。最初にこの旗に触った。チームは通常の世界に戻ってイタダキマス。」

黒いフード男がこう言うが、皆唖然としていて反応がない。

太郎は、意外と冷静な自分に心の中でニヤリと笑った。

周りを見渡すと全校生徒がいる訳でなく、太郎と同じ2学年の全クラスがいるようだと気づいた。

太郎の高校、美濃藤高校は、1学年5クラスの1クラス40名。そして教師は、ざっと見る限り4名。

(1クラスだけ担任がいないのか?つまりここにいるのは204名だろう.....)

と太郎は心の中で計算していた。

そんな時......

「チームとは、どう決まるのでしょうか?」

太郎の後ろの方から、この場に似合わないハキハキとした通った声が聞こえてきた。

彼の名前は、2年Bクラス北本彩ノ介キタモトサイノスケ。太郎と同じクラスであり、太郎とは真反対の運動神経バツグン、人付き合いも良い青年だ。見た目も爽やかなスポーツマンといった印象で太郎にも話し掛けてくる数少ないクラスメイトの1人でもあった。

北本の質問に黒いフード男は、抑揚が全くない口調で言う。

「腕時計を。チームになりたい方と、接触させるだけです。チームになれる方は、最大5名。一度チームメンバーになったらそのメンバーと別れる事は、デキマセン。チーム同士で5名以下であれば途中で合流は可能デス。」

ほとんどの生徒、教師は右腕に真っ白な腕時計がついてる事に言われるまで気づいていなかった。

気づいていたのは、太郎を含めて5名ほどといったところか。

腕時計の形をしているが、秒針や時刻などは全くないただの液晶。北本は、その腕時計の液晶をタッチしてみる。

そうすると液晶から、画面が空中に出てきた。

そこには、自分の名前とチームメンバー、地図が映し出されている。

もちろんチームメンバーの欄は、まだ空欄状態で、なりたい人と腕時計を接触させれば、メンバーになり、ここに名前が出るということだろう。

 皆が一通り確かめたであろうタイミングで黒いフード男は、続けて言葉を放るように言う。

「今から。30分後にスタートいたします。

スタート地点は、フィールドの最外地からランダムで配置されます。

中心の旗までの距離は皆が平等になる距離でゴザイマス。

フィールドは、直径50kmの円形でゴザイマス。

ルールは特にありません。中心の旗を一番最初に触ったチームが勝ち、現実に戻ることがデキマス。

皆さま、頭を使って。いち早く旗に触ってみせてクダサイ。

では、健闘を祈りマス。」


そう言うと黒いフード男の姿が消え、背面にデジタル数字の30:00:00が浮かび上がった。

この数字が0になった時スタートという事だろう...

太郎は、腕時計の液晶に触り、ゲームのウインドウのように浮かび上がる映像をチェックする。

『名前:創科太郎』

『チームメンバー: 』

『ルール』

(ゲームだったらクソゲーだな.....)

そう心の中で呟くとルールのボタンを押す。

『ルールは、ゲームスタート後に閲覧可能となります。』

液晶には、ただそれだけが表示された。

太郎がそんな事をやっている間に、他の生徒はうずくまっている者、それを慰めている者、修学旅行気分の様にはしゃぎながらチームメンバーを決めている者、慎重になっている者、様々だったが、太郎の周りには誰もいなかった。勿論、当事者が一番理解していた。目の当たりまで伸びた前髪の奥の目は、じっと一点を見て、壁に映し出された数字が0になるのをただひたすら待っていた。


 昔から人付き合いが苦手であった太郎は、小、中学校と環境に溶け込むように影の薄い人間だった。

いじめもされなかったが、友達と呼べるクラスメイトもいない。そんな小・中学生時代を送り、美濃藤高校に入学するも、全く本人も周りの環境も変わらず、2年半の高校生活を終えた。

(まあ、1人でやるか.....いつもどおりさ..)

そんな風に息を吐き、目を閉じていると凛とした声色、少し陰も見える様な女子の声が聞こえてきた。

「もし良ければ、私たちとチームを組みません?」太郎にとって。そんな声は雑音でしかない。

「ねえ?聞いてるの?ねえ?」

徐々に声量が大きく、かつ威圧的になる女子の声。

「まあまあ。落ち着きなよぉ〜浦羽ウラワ!」

もう1人の女子の声が聞こえる。

その声は、もう1人の声とは真逆で、明るく元気とだけの印象の声。

(浦羽?.....あぁ、鳥宮さんか..)

太郎は浦羽という女子の名前を知っていた。他から興味を持たれず、他に興味がない太郎でもその名前は知っている女子。太郎と同じ2年B組、あまり人と積極的に話しているような印象を受けないが、学年に知らない人はいない。

なぜか?

美濃藤高校は、学力至上主義を掲げており、1年に4回の学力テストのたび、1位から200位まで全ての順位が貼り出され、学力ランキングなるものが毎回決められる。

太郎が入学してからその学力ランキングの上位5人が揺らいだ事はなく、その1人が......

[学力ランキング:2位 鳥宮浦羽 ]である。

すると、いきなり太郎の頬に衝撃が起きる。

状況がイマイチ把握できない太郎は、なぜだがジンジンする頬を押さえながら声の方向に目を向ける。

「聞いてるの?」

とても冷たい声。艶のある長い黒髪に丸眼鏡の奥の目はとても鋭くこちらを見ている。

きっと頬にビンタを食らわしたのであろう体勢のまま、鳥宮浦羽トリミヤウラワは、もう一度、抑揚なく見下したような声で太郎に言う。

「創科君、チームを組みましょう。いいですか?」

浦羽の横でビンタが衝撃すぎたのか、両手で口を押さえ、目を丸くしながらこちらの様子を伺っている女子。


太郎は、イマイチ状況を把握できなかったが、

「は、はい...」

と頷くように声を漏らした。

「良いのであれば、早速チームを組みましょう」

鳥宮はそう言うと自分の腕時計を太郎の腕時計にくっつける。

すると、「ピコンッ」と機械音がして

ウインドウが出てきた。

『チームメンバー:創科太郎、鳥宮浦羽、河越恵』

「ど、ども」

低いトーンで頭を下げながら太郎は、鳥宮と河越恵であろう女子に頭を下げる。

鳥宮は、見下ろすように腕を組みながら、太郎の姿を見てため息をつく。

「まあ、いいわ。宜しくお願いします。創科君」

それを見て、横の女子も続く。

「初めまして!2年Dクラスの河越恵カワゴシケイと言います!浦羽とは幼馴染みで浦羽がお世話になっており......」

「恵..別に創科君とは仲良いわけじゃないし、お世話になった覚えはないわ」

そんなやり取りを見ながら太郎は、何故自分を?

という疑問と、もしこのゲームをするには、学力ランキング2位の鳥宮浦羽と同じチームになるのは心強いという気持ちが入り混ざっていた。

(どちらにせよ、チームメンバーになったら脱退・変更はできないしな....)


「鳥宮さん、河越さん宜しくお願いします」

開き直ったように、太郎は改めて頭を下げた。


そのあと、太郎はスタートするまで2人と一緒にいたが、特に話はしなかった。鳥宮と河越は、いつも通りの様子であろうテンションで話をしている。

鳥宮浦羽と河越恵を見ていると「対照的な2人」そう感じる太郎。

168cm男性としては少し小柄な太郎より背がおそらく高い鳥宮浦羽。秀才振りが外見からも滲み出ている。

一方、おそらく150cmぐらしかない小柄な体であるが、口調や雰囲気から快活な女の子、頭は....良さそうには見えない。そんな印象の河越恵


太郎がそんな事を考えている内に、他の生徒もチームがあらかた決まっている様子が伺える。


「浦羽、5人じゃないけどもう2人誰か誘わないの?」

周りを見ながら不思議そうに聞く河越に、太郎の方を見て鳥宮は言う。

「創科君、あなたはどう思う?」

「今は、この3人でいいと思う。」

太郎はそう言うと辺りを見回してから続ける。

「このゲームは、チームに一度入ると抜けられない。だから5人は慎重に選んだほうが良いし、今の時点で5名で組んでる人は、これからその5名のままずっといかなきゃいけない。周りを見ると、意外と2、3人でとりあえずチーム組んでる人が多いから、あとでチーム同士で合流とか考えているんだと思う。」

ハッキリ言う太郎を見て、鳥宮は安心した様にニコッとすると河越に対して補足する。

「そう。ただ旗に一番先に触ればいいだけなら、5名組んでもいいけど、何があるかわからない。だったら、適当な人でチーム枠をいっぱいにするのは、リスクが大きいわ」

「ほぉーー!なるほど!」

ホントにわかってるか不明だが、河越はポンっと右手を左手に打ちつける。


(そう、そうなんだ。だからこそ、鳥宮さんは僕をチームに入れた理由がわからない.....)

そんな疑問を持つ太郎。


そして、映し出されたデジタル数字が0になり、太郎達のいる空間に

「ピッーーーーーーー」

と甲高いホイッスルの様な音を鳴り響かせる。

その瞬間、その空間にいる美濃藤高校2年5クラス200名と教師4名は真っ白な閃光に包まれ、身体が浮き上がる様な感覚に陥る。


「さあ、“Flag Wars”の開始でゴザイマス。」

黒いフード男が呟く。

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