第35話 旅路の終わり
──先に結末を言ってしまえば、私たちの冒険はここで終わることになる。
そもそもこの程度で
じゃあ最初から意味なんてなかったじゃないかと言われればその通り。体験入学と言うには命懸けすぎたし、目的がわからない。
こういうときに便利なのが、蓋然性?
私たちは一点の曇りもなく全力だったし、救出されたときには正直ほっとした。両立しない話ではないだろう。
押しも押されもせぬ価値があったのだ。全部が本当の世界で、光景だった。何も私たちを割り引いて考えてくれやしないことが、子供心にとても心地良かった。
総じて、忘れられない初めての冒険と言うには十分じゃないだろうか。
「これは知ってる。
青緑色の人型の獣。知能が高いらしく手にはこん棒を携えている。
その敵意が私たちに向いていることに気付くと、さっきまで傍観者気取りで怪獣の戦いを観戦していた自分が恥ずかしくなった。
たぶんだけど、大蛇の死骸と、死骸を食べに集まった甲殻類でも採りにきたんじゃなかろうか。その途中で人間のガキ二匹を見つけたから、ついでに狩ってしまえと思ったのでは。
「こんなに人型なんだ」
「ハイデマリー!? 逃げないと!」
「逃げ道なくないかい」
こいつらは明白に逃げ道を潰すように私たちを包囲していた。ちょっと守りが薄くなっているような場所はどう考えても罠みたいに待ち構えられている。
今日一日背負いっぱなしで役立たずだった、こん棒を手に持った。
「あいつら、ヴィムと身長一緒だね。……いける?」
「その、真剣に怖いです……」
「いけるんだな。よし構えて」
俄然、私は戦う気でいた。
気分としてはそう、観ていた舞台に上がる感じ。
ああ、頬が吊り上がる。
戦うんだ。さっきの激戦を見て私は昂っていた。
感心するだけなんて道理が通らない。それで通ってしまうとみなす奴らが嫌だから、私は
冒険するって言った。なら戦わないと。
私たちを舐め腐っていた
手に鈍い感触。何かを割ったかも。
真横に振りぬいたので、また逆方向に振りぬく。二匹目。
やべ、超楽しい。
二匹の尊い犠牲を経て、ようやく戦いの火ぶたが切られた。
「ははは! 死ねぇ!」
「なんでそんな楽しそうなの!?」
「いっぺん人型を殴ってみたかったのさ!」
私はこん棒を振るう。ヴィムは倒すというよりもいなす感じで
必然、背中合わせに守り合う形。
多勢に無勢。追い詰められれば追いつめられるほど互いの背中が当たる。
心なしか下卑た笑みを浮かべているような
気持ちが良い。
でも、蹴られたり腕を掴まれたりするのはぞっとして気持ち悪い。というか私もこん棒で殴り返されている。
実に公平じゃないか。
「大丈夫かいヴィム!」
「キツいかも!」
すばしっこさが取り柄のヴィムは自分とさほど体格の変わらないモンスターと戦うのが相当辛いらしかった。
私たちはどんどん追いつめられていく。まだまだもつけど、突破の見込みがまるで立たない。どこから湧くのか
命の危機がすぐにそこにあった。負けたら殺されるのかな、それとも捕まって色々されるのか。
怖くなってきたよ。
「……どうしよう」
ヴィムが弱音を吐く。
「嘘つけ。ヴィム、笑ってるし」
「……へ?」
「わかるぜ。なんでかね、クソみたいだが、これが望んだものって気がしている。夢が叶っている気がするんだ」
お腹の底から力が湧いてくる。地面からもらった力と一緒に掌に回る。思いっきり
私が左に振れて隙ができた。敵は当然そこを狙う。
狙っていたのはヴィムも同じだった。
連携ってやつが、できてきた。
「負ける気しないな?」
「……俺はしてるけど」
「つまんねえこと言いやがって」
「でも、気持ちはわかる」
「だろ?」
私が殴って牽制して距離を確保する。そこを埋めようとしてきたところをヴィムが刺す。
通用してる。
気持ちが昂っている。
だけど状況は悪くなる一方。倒した数より湧いてくる数の方が多い。
もう打って出るしかないか。
私はヴィムの方を見た。きっと笑いかけていた。
完全に意思が通じている。
ここから先は背中合わせで戦うんじゃない。同じ方を見るんだ。背中に攻撃が迫る前に進んで突撃して逃げ切ってしまう。
「あああああああああ!」
──先にも述べたとおり、まあ結局、この戦いが私たちの勝利に終わることはなかった。
敗北でもない。
打ち切りである。
追手が私たちに追いついたのだ。
「発見しました!」
振り向いて見えたのは制服を着た職員を先頭にした、冒険者たち。
彼らは遠近感が狂いそうな速度で瞬く間に私たちの下へやってきて、動くな、自分の身だけ考えてろ! と叱りつけるように叫んだ。
まるで箒で埃を掃うみたいに、
もうちょっと蹴れば球を投げるみたいに飛んでいくし、はたくだけでぶちゃりと音が鳴って破裂するし。冒険者たちからすれば
ヴィムと私は、自嘲気味に笑った。
「終わっちゃうねぇ、これ」
「……うん」
「楽しかったなー」
「……うん」
私たちが全身全霊をもって苦戦していたモンスターの群れがあの様なのである。これ以上、逃げられもしないだろう。
さすがにもう、諦めた。
無抵抗の私たちは軽く担ぎ上げられた。
「確保!」
ああ、捕まっちゃった。
その様子を見て局面が落ち着いたと判断したのか、制服を着た職員が耳に手を当てて言った。
「入り口付近、南西の三─四点です! モンスターは
けっこう頑張ったつもりだったけど、私たちの足じゃまだ入り口付近ってくらいまでしか行けなかったか。
やっぱりちょっとだけ、悔しかった。
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