第72話 翼破⑨
転送陣を踏み、地上へ戻ったこの瞬間。
至福の瞬間だ。
さっきまで騒がしかったことがわかる静まり具合。
冒険者たちが黙って俺たちを見ている。ある者は忌々しそうに、そして最近は羨ましそうに。
ざまぁみろ、と思った。
勝手に
『どうですかな、お望みの景色だと嬉しいのですが……』
『ああ。満足しているよ。今のところは』
『それはそれは』
『だが地上で話しかけてくるな。気色が悪い』
伝達魔術を切る。
まったく、毎度どこから話しかけてくるのかわかったもんじゃない。
役に立ってはいるから文句をつけるつもりはないが。
あのゲレオンというのはなかなか使える男だった。
奴が提示した方法はなかなか俺たちに合った。
俺たちに足りなかったものは大人数をまとめるだけのノウハウだ。
それさえあれば造作もない。
現にこうやって俺たちは前みたいに成果を出し続けている。
実力の発揮の仕方を知らなかっただけなんだ。
だから、
成果を前借りしているだけにすぎない。
「クロノス!」
「……やったね!」
転送陣から戻ってきたニクラとメーリスが駆け寄ってくる。
それに遅れて新しく入ったメンバーたちも。
今や二人は【
まだまだ人数が増える余地はあるし、これから先、俺たちはどんどん上の地位につくことになるだろう。
ああ、前みたいな笑顔だ。俺まで嬉しくなる。
「ソフィーアはどうした?」
「あー、ソフィーアさんはギルドに報告書を出しに行くとかって」
「そうか」
またか。
ソフィーアは本当に頼りになるが、やはり心配性なのが抜けないなぁ。
ゲレオンの奴が伝達魔術だの作戦だのを考えてくれているから、ソフィーアの負担は減っていると思うが……ちゃんと休めているのだろうか。
しかし細かい手続きに気を回してくれているのは有難いかな。
俺はああいう難しいことはよくわからないので、知らない間に助かっていることもあるのだろう。
彼女も【
本当にタイミング良くうちに入ってくれた。
ギルドの外に出る。
フィールブロンの住人の目線が心地良い。
恨めしそうに文句たれているやつらの顔の面白さったらありゃしない。
手のひらを返したやつらもそれはそれで面白い。
純粋に応援してくれる人だってここ最近は増えてきた。
俺たちはここに復活した。
最前線のAランクパーティー【
すべては結果で示した。
誰一人いちゃもんを付けられる奴はいない。
もうじき
そこで俺たちは、冒険者で最高の栄誉を受ける。
そこまでいけば、もう誰も文句を言うやつはいなくなるだろう。
【
もともとクロノスさんとニクラさんとメーリスさんの
それをうまく運用してかつ人員を補強しきることさえできれば、最前線で多少の成果を上げることは完全に不可能というわけではない。
でも、これはあまりにできすぎていた。
不自然な点も多すぎた。
まず私が一方的に作戦立案や地図の作成から外され、今はクロノスさんが一人でそれを担っている状態だ。
失礼な言い方になるが、何の勉強も訓練もなしにクロノスさんにそれができるとは思えない。
クロノスさんは本人は隠しているつもりなのだろうが、クロノスさんは常に私たちとは別の伝達魔術を用いてやり取りしていた。
ニクラさんもメーリスさんも薄々気付いている。
でもみんなクロノスさんを信じていた。
俺に任せればすべてうまくいく、という言葉を盲目的に信じ込んでいた。
成果が誰にも文句を言わせなかったのだ。
クロノスさんは持ち前の強引さでみんなを率いて、もう何か
その姿は冒険者に憧れる少年や夢見がちな女の子なら一発で虜にしてしまうくらいで、実際に新しく【
しかしそれでも、疑いが確信に変わったのは、口座から不自然にお金がなくなったことに気付いたときだった。
あまりにも巨大な、リーダーの本人証明の血印がないとそもそも引き出すことすらできない額。
問い詰めないわけにはいかない。
でも何も教えてはもらえなかった。
ソフィーアは何も心配しなくていい、俺に全部任せろと、そんなことを言われるばかりだった。
今、私の手元には金の流れを調べた調査結果がある。
当然三人には秘密だ。完全に私の独断。間違っていたならそれが一番いい。
だけど、そこに書いてあったことは完全に私の予想と一致してしまっていた。
愕然とした。
悪い予感が当たってしまった。
同時に押し寄せてくる現実。
でも、これは違う。こんなことに加担するために私は【
時間は十分にあった。
準備は整ってしまっていた。
もともとこの予定だったのだ。
居心地もいいわけじゃなかった。
でも三人とも、どうかと思うところはあったけど悪い人ではなかった。
それなりに話もできたし、目的の為とはいえ骨を折っていろいろ教えたり、逆に自分の未熟さを痛感したときもあった。
多少の愛着があった。
……ダメだな。これだからお前には向いてないって言われてたんだ。
いい加減、潮時だろう。
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