第83話「審判の島」
「クリード君、君は大人しくて良い子だ。そんな君には、大切な仕事を与えよう」
そう言うと、悪魔はベリルの足元に革製の袋を投げた。
「ベリル君、それにクリスタルの瓶を入れて、クリード君に渡してくれないか?」
「……」
仕方なく、ベリルは悪魔の指示に従う。瓶を革袋に入れて、紐をきつく縛った。
「クリード」
ベリルが問いかける。
「ひぃぃっ!!」
「大丈夫。僕だよ、ベリル」
「…………」
ゆっくりとクリードが顔を上げた。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。
「お、お、お兄ちゃんたち! ご、ごめんよ。ぼく……、ごめんよ」
「いいんだ。立てる? ほら、これを君にあずけるよ」
「なにこれ?」
「中にクリスタルの瓶が入ってる。あの時話してたクリスタルだよ。憶えてる? 海賊の手記に書かれていたクリスタルさ。僕ら、見つけたんだ」
「首にかけてあげたまえ」
後ろから悪魔がそう指示をした。
「さ、首にかけるよ。これは特別なクリスタルなんだ。あの悪魔も海賊たちも、これを怖がってる。だから、これさえ持っていれば安全だよ……」
「余計なおしゃべりすんじゃねぇ!」
そばにいた海賊がベリルに蹴りを入れた。
「うぐ!」
ベリルはうずくまる。
「ベリルお兄ちゃん……!」
「だ、だいじょうぶ。大切に持っていてね」
ベリルはそう言って、革袋の紐をクリードの首にかけた。
船は静かに、空に浮かぶ島へとたどり着いた。
ジェイドとベリルをふくむ子どもたちは、全員、手をきつく縛られて、逃げ出せないように、お互いをロープで結ばれた。
虜囚の子どもたちは、海賊に連れられて島へと降り立った。
その島は、あちこちに黒紫の岩が突き出していた。まるで人間のあばら骨のようだ。足元には
「なあ、地獄の門ってのはどんなところだと思う? ええ?」
ジェイドの横を歩く海賊がにやにやしてそう言った。足刺されの海賊である。
「恐ろしい場所だぜ? そこで儀式をおこなうんだ。もうすぐ着くから待ってろよ」
そう言って、ジェイドの頭を小突いた。だが、ジェイドは無反応だ。
「儀式ぃ? ああ、なるほど。自分たちの悪行を悔いて懺悔するんだな?」
ベリルが、急にすっとんきょうな声を出してそう言った。
「ああ?」
ジェイドを小突いた海賊がベリルを睨む。
「そろそろ教えてほしいね、あんたらがずっと生き続けているカラクリをさぁ?」
「フッ、いいぜ? 教えてやる。俺たちが、何百年も生き続けている理由を」
海賊は不敵に笑ってそう返した。
「生きてるって!? オレには、お前らが生きているようには見えないけどね。あの船には鏡がないらしい」
ジェイドの口調を真似て、ベリルが皮肉を返す。その言葉に、その海賊が、ベリルのみぞおちにパンチを食らわせた。
ベリルが、苦しげな声をもらした。
「…………」
横を見ると、ジェイドは無表情だった。何を考えているのか分からない。
ジェイド……。
「地獄の門は堕天使たちが守っている。本来はそこで罪深い者の魂を地獄に送る役割を担っている。だが、船長は堕天使より上の存在だ。堕天使に、別の仕事をさせられるのさ。
つまり、堕天使たちの力で、子どもから寿命を奪い俺たちに分け与えるのさ。これで朽ちかけの肉体ともおさらばだ。また若い肉体へと我々は蘇る」
「それが、カラクリかよ」
ベリルが吐き捨てるよに言った。
「そうさ。ずっと生き続けるために。そしてこれから先、何百年と生き続けるために」
「なら、もう終わりにするべきだな」
「フン、言っていろ! 地獄の門の恐ろしさを目の当りにしたら何も言えなくなるぜ……。ホラ、見えてきた」
海賊と虜囚の子どもたちが、坂の上にたどり着いた。
そこはだだっ広い円形の広場だった。列柱が周囲を取り囲み、地面一面には、黒と白の大小さまざまな丸石がしきつめられている。そして、中央には、赤錆だらけの巨大な鉄の丸蓋があり、いくつもの太い鎖がのびて列柱とつながっていた。
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