第6話 名前と副会長
そして翌日。
今日はオリエンテーションが予定されている日だ。
3、4時間目に予定されているため、千慧たちはこれから体育館へと移動することとなる。
「ねぇねぇ、千慧くんって生徒会長と知り合いなのって本当?」
よく名前も分からないクラスの女子が馴れ馴れしく話しかけてくる。
まぁ、そこまで気分を害されたわけでもないし、まだ出会って2日しか経っていない。
これからいい友人関係を築いていかなければならないため、あまりこういうところを気にしているわけにもいかない。
「うん、そうだけど先輩がどうかしたの?」
間違っても警戒はさせないように、なるべく優しく微笑みかける。
「うん、一つ聞きたい事があるんだけどいいかな?あのね、生徒会長って副会長と付き合ってたりする?そうじゃなくても服会長って彼女いたりするのかなぁ……?」
やや恥ずかしそうに、指で髪の毛を弄りながら控えめ気味に訊いてくる。
そんな彼女には目もくれず、千慧の頭の中は神瀬千歳のことでいっぱいになっていた。
先輩が誰かと付き合ってるなんて考えたくもない。
それに、昨日入学したばかりなのに、生徒会メンバーなんて知っているはずもない。
流石に冷たくあしらうこともできず、悩む様子を見せた。
「どうだろう?俺も生徒会長とは昨日知り合ったばかりだし、副会長のことはよく分からないなぁ。ごめんね、役に立てなくて」
謝罪の言葉も合わせて伝えると、大丈夫と明るめの返事が返ってきた。
しかし、彼女が大丈夫でも千慧の方は全く大丈夫ではない。
考えたこともなかった。
先輩が自分以外の誰かの隣に並んで幸せそうに笑いながら歩いている姿なんて想像したくもない。
たとえ、その姿を想像できたとしても彼女の隣に並んでいるのは自分であってほしいと願うのはいけないことなのだろうか。
千慧は少しフラつきながらナオのいるところへ歩いていく。
彼の先には同じクラスの男子が何人かが、かたまって歩いているのが確認できる。
「ナオ」
後ろから呼びかけるとおわっ、と声を出して驚く彼。
そしてもっていたオリエンテーション資料の一式を床にぶちまけた。
その様子がたまらなく面白くて肩を震わせる。
「おまっ!急に後ろから来んなよ。びっくりしたわ!」
「はは、ごめんって。ってあれ……?」
彼が落とした資料を一緒になって拾っていると、ふと疑問が湧いた。
昨日から彼と一緒に過ごしていて気にしたことはなかったけど、そうだこいつの名前の漢字知らない。
「どした?忘れ物か?」
「いや、そうじゃなくて。ナオってそういう漢字を書くんだなって思っただけ」
「あぁ、なんだ今更気づいたんかよ」
今更って……。
まだ2日も経っていないのだから知っている方が珍しいと思う。初対面だったわけだし。
そういう彼だって千慧の名前の漢字なんて知らないのだろう。
さして彼はそれほど気にすることもないだろうけど。
ナオは拾った書類を抱え直すと、立ち上がってスラックスの埃をはたいた。
そしてまたゆっくりと歩き出す。
千慧はそんな彼の右隣に並んで同じように歩き出した。
「名前さ、女みたいで嫌だなってちょっと思っててさ。七桜なんて。昔から女子に間違われることもよくあったんだ。千慧だってそういうことあっただろ?」
「いや、別に俺はそんなことないけど……。って違うんだよ、俺はそういう話がしたいんじゃないの」
そうだ、危うく目的を忘れるところだった。
首席が新入生挨拶をして生徒会に入るという伝統について知っていたならかなりこの高校について詳しいはず。
だから、副会長について聞いてみようと思ったのだ。
体育館に着くと、もう既に生徒会のメンバーが何やら会議のようなことをしているようだった。
真っ先に先輩の姿を見つけて、話かけたい衝動に駆られるけど、そこは我慢。
先輩だって、仕事をしているんだから、邪魔するわけにはいかない。
「で、俺に何を話したかったわけ?」
「副会長について聞きたくてさ。そもそも副会長ってどれ?」
「どれって……」
七桜は呆れたようにため息をつくと、あそこと指をさした。
ネイビーに近い髪から覗く耳には無数のピアスが開いている。
腕にはおしゃれな腕時計やブレスレッド、そして右手の指にはいくつかの指輪をしているようだった。
うちの学校、かなり校則が緩いことは分かっていたけど、まさか生徒会であの格好が許されているとは。隣にいる七桜の耳にもかなりの数のピアスが開いていた気がする。
「あの人が副会長の松永万尋先輩だよ。バスケ部のエースなんだ。結構、女子に人気があるみたいで、SNSでもかなり有名な人。まぁ、あれだけ顔が良ければ女子はみんな落ちるだろうな」
「ふーん。あの人今彼女いるの?」
垂れ目で、髪色に似た瞳を持ち合わせていてかなりの美形だと千慧も思った。
「確か、今はフリーだったような?てか、千慧は生徒会のメンバー知らねぇの?」
「生徒会長しかキョーミないから」
ズバッと言い切った千慧に、七桜は関心するしか無かった。
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