第4話 驚きと挨拶
あれから無事にクラスメイト全員の自己紹介も終わり、現在は入学式が始まっている最中である。
教室にいるときはそこまで緊張していなかったけど、やっぱり会場の厳かな雰囲気に圧倒されそうで、かなり心臓がバクバクしている。
校長先生や来賓の人の挨拶の言葉は長く、俺は隣の男子の頭がカクカク揺れているのを横目で確認できた。
実はそれが少し羨ましかったりもするのだが。
俺の挨拶は今の市長の挨拶の後にある生徒会長の挨拶の後だ。
その間も割と時間があるからさらに緊張が増す。
「生徒会長挨拶。神瀬会長、お願いします」
神瀬、という名字にひっかかりを覚える。
どこにでもいるような苗字ではないからかもしれないが、さっき案内してもらった先輩の名前も神瀬だった気が。
でも生徒会長って普通は3年生がなるものだし、あの先輩は2年生だって言っていた。だから別人なのだろうと思っていたのに……。
壇上に上がったのは紛れもなく彼女の姿だったのだ。
ミルクティー色の髪がさらさらと揺れている。
確かに生徒会の仕事があるとは言っていたけど、まさか生徒会長だったとは思いもしなかった。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
凜とした立ち姿とよく通るハリのある声で、さらに背中を押してもらえたような気がしてきた。
堂々とした彼女の姿には惚れ惚れする。なんて、綺麗なんだろう。
少しでも彼女の目がこちらを向いてくれないものかと心の中で願うが、先輩は最後までまっすぐ前を見て話していた。
「はぁ……」
先輩の挨拶が終わった今、次は自分の番だという現実にすごく逃げたくなる。しかし、そんなわけにもいかず千慧の名前を呼ぶアナウンスが入ってしまった。
千慧は心の中で気合を入れると、前を向いて壇上に上がった。
そして深々とお辞儀をして再び前を向く。
想像以上の人の多さに圧倒され、指先は氷のように冷たくなっているがここで挫けるわけにはいかない。
先輩に教えてもらった通りにすればきっと大丈夫。
あっという間に終わってるはず!
千慧は深呼吸をした後、体育館の遠くの壁を見つめながら口を開いた。
「暖かな春の訪れと共に、私たち207名は十六夜高校の一年生として入学式を迎える事ができました___」
なんとか挨拶を終え、壇上を降りるとナオが何かを言いたそうにニコニコしながらこちらを見ていた。
まぁ、あいつの話は後で聞いてやることにして。
席に着くと緊張の糸が解けたのかふっと体から力が抜けていくのがわかった。
式が終わり、教室に戻ろうとするとナオが駆け寄ってきていきなり俺の背中を思い切り叩いてきた。
「ってえ!!なに!?なんで叩いたの!?」
「いやさ、首席なら言ってくれよな。めちゃめちゃ頭いいじゃんか〜!」
訳もわからず頭にハテナを浮かべていると、後ろからトン、と肩を叩かれる。
振り返るとそこには先輩が笑顔で立っていた。
「呉宮くん、挨拶お疲れ様。すごく堂々としていてよかったよ」
「ありがとうございます。先輩のアドバイスのおかげです」
え、と今度はナオが驚く番だったようだ。
まぁそれもそうだろう。
皆にとっては初対面の生徒会長と普通に話しているのだから。
「えっと、会長と千慧って知り合いなんすか?俺、西野ナオって言います。よろしくお願いします」
「え、お前西野って名字だったの?初耳なんだけど」
「は!?さっきの式でも名前呼ばれてたし、自己紹介だってしてただろ!?」
「ごめん、聞いてなかったわ」
聞いとけよ!と喚くナオと謝る千慧の様子を見て千歳はなんだか嬉しくなっていた。
さっきまで自分の性格に自信がないと言っていた彼が、新しくできた友人の前で自然な笑顔を見せられるようになっているのだから。
「よかったね、呉宮くん。いい友達ができて」
「え、そうですね。先輩のおかげです。あはは。あ、そういえばさっきナオが言ってた事が気になるんだけど。新入生挨拶と首席がどう繋がるの?」
「それはな、高校受験で一位を取った奴が新入生挨拶をするって決まってんだよ。あと、大体その人は生徒会に入ってる」
へぇ。けど、成績なんて知らされていないから、首席かどうかすら確認できないんだけど。
あ、でも確か神瀬先輩も新入生挨拶をしたって言ってたな。
それに今は生徒会長で……。
「私、当てはまってるね。そういえば前の生徒会長も新入生挨拶やったって聞いたなー。あ、そうそう君たちにお願いしたい事があるんだけどいいかな?」
両の掌を叩くと、先輩は何かを思い出したのかくるっと踵を返した。
まるで着いてきて、と言っているように見え、千慧とナオは千歳の後をついていくことにした。
特に会話もなく、まだ見慣れない廊下をどんどん進んでいく。
しばらくの間は1人でこうないを彷徨くのはやめておこう。
絶対にまた迷子になる。
ナオと一緒に行動することにしよう。
隣をチラッと見ると、ナオも同じことを考えていたのか強く頷いた。
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