そして僕は………
無色透明
第1話なくしたモノ
僕は人を殺した。
僕の目の前には血だらけで倒れている母親と父親そしてその血を浴びて手には包丁を持った僕。
(ああ、僕は親を殺したんだ。)
心のなかでつぶやくが罪悪感も喪失感もなにもない。そこにあるのはただただ親を殺したという事実だけがあるだけだった。
外では隣人が何やら騒いでしばらくしてからパトカーのサイレンが鳴り響いている。ふと電源のついていない真っ黒なテレビを見るとそこには感情を削ぎ落としたやせ細った少年がいた。
(やっと僕も死ねる)
そう思ったあと僕は持っている包丁で自分の心臓を一突きで刺した。
玄関が強引に開けられ、中に入ってくる警察官達。他には隣人で幼馴染みの女の子(名前何だったっけ?ま、いいや。)が僕をみて泣き叫んでいたがもう僕には届かない。そして僕はゆっくり目を閉じた。これですべてが終わる。
(なんだ、思ってたより何も感じなく空虚な人生だったな。僕も昔は多分笑ったり泣いたりそれこそさっきの女のコと遊んだり喧嘩したりしたんじゃないかな。もう思い出せないや)
僕はこの日自らの両親と自らの命を奪ってこの世から消えた。
目が覚めた。
「……えっ?」
久しぶりに自分の声が出た。無理もない、だって僕は死んだはずだから。辺りを見ると周りには何もない。ただただ僕一人がいる空間、真っ白で何もない。
あ、そうか!ここは死後の世界なのかもしれない。そう思うと一気に不安がなくなった。ちゃんと死ねたんだ。よかった。僕が一人安心してたら
「はじめまして灰原那月さん。」と僕の目の前に一人の女性が立って声をかけてきた。
いきなり出てきてびっくりした僕は声を発するのを忘れていた。しばらく経っても返事がないので目の前の女性がもう一度
「はじめまして灰原那月さん。混乱するのもわかります。ここは生と死の間の空間。そして私は生と死を司る女神ヨハネです。よろしくお願い致します」
情報量が多くて追いつけないがとりあえず
「………はじめまして灰原那月です。よろしくお願いします。」と答えた。
するとやっと会話ができたのか満面の笑みではい!と答えた女神?がそこにはいた。このとき、ああこの人は本当に女神なんだと思った。人間にはこんな満面な笑顔の人を見たことがないから。
僕が一人納得していると女神が
「いきなりですが灰原さんは異世界転生にご興味ありますか?」
「……異世界転生?なんでしょうか?それは。」
異世界転生、聞いたことがあるようなないような事を言う女神に僕は聞き返した。すると一瞬目を見開いたがすぐ納得したような顔をした女神が
「そうですよね、あの環境では知ることは難しいかもしれません。配慮が足らず申し訳ありません。異世界転生と言うのは灰原さんが生きていた世界とは別の世界で新たに人生をやりませんか?というご提案です!」
何故か僕の人生を知っていた女神に謝られたあと異世界転生について教えてもらった。別の世界でやり直す?僕が?人殺しの僕が。
「人殺しのあなたでは別の世界でやり直すのは気が引けますか?」
一瞬驚いたがやっぱりこの人は僕のことを知ってる。だから
「そうですね、僕は人の犯してはいけない事をしました。なのでできればこのまま死んで行きたいです」
「灰原さん。もし罪を償いたいなら異世界に言って善い行いをするのも手ですよ?」
あれ?この人は僕の事を知ってるんじゃないのか?だって僕のことを知ってたら
「あの?罪を償う?なんの事ですか?僕は罪を償いたいとは思ってませんよ?確かに人の犯してはいけない事を僕はしました。でもそれはあの世界のルールだからです。僕のルールじゃない。先程は世界のルールに従ってこのままあの世に行けると思ったのでああは言いましたが僕は罪とは感じてない。」
だって
「だって僕が殺したのは人じゃなく害虫でしょ?」
静寂がこのどこまであるのかわからない広い空間にいきわたった。女神はまるでどうしていいのかわからない様で言葉を発せられない。なので
「あの〜女神さま?もうそろそろ僕を死なせていただけませんでしょうか?」
女神は僕の声が聞こえないのか反応しない。なのでもう一度声をかけようとした時
(…ケケケ、お前面白いな!気に入ったぞ。)
と背後で声がした。何かと思い振り向くがそこには誰もいない。何だったんだ。僕がそう思っていると
(オレはそこのいけ好かない女神と対をなす存在だな。この答えでいいか?)
また声がしたが今回は振り向かない。だってその声は僕の頭の中から聞こえたから。なので僕も
(あなたはなんなんですか?)
(お?さっきのじゃわかりにくかったか?そうだな女神の対だから死神ってところだな。)
(死神?ああやっと死ねるんですね?よかった、あの女神様が固まって話が先に行かなかったので。ではお願いします、死神さん。僕をあの世に連れてってください!)
(う?ああ、わかった!ケケケこれでオレも退屈せずに行けるな!おい、お前!何か望みはあるか?今は気分がいい。何でも望んだものをやるよ)
望むもの?これからあの世に行くのに必要なものなんてあるのかな?………ああそうかあの世は何もなくて退屈ってことかな?なら
(退屈を紛らわせるようなものかな?正直僕は前世で娯楽を経験したことがないからパッと思いつかないから死神さんの方でなんか楽しそうなモノをください!)
(ケケケ、了解した。とびきり楽しいモノをお前にやるよ。じゃあまたな)
そうしてあたり一面真っ白な空間から真っ黒な空間が出てきた。ああやっと死ねる。僕の人生はなかったようなものだったけどこれからはあの世で退屈せず過ごせるんだ。死神さんに感謝だね。僕が満足気にいるとこの空間に突如現れた真っ黒な空間に気づいた女神が
「こ、これはなんですか!灰原さん?これは一体なんなんですか?」
すごく慌てた様子の女神さま。僕は安心してもらうために
「大丈夫ですよ、女神さま。死神さんにあの世に連れってもらうことになったので異世界転生は大丈夫です。ありがとうございました。」
僕がそう言うと顔面を真っ青にした女神。
「……し、しにがみ?は、灰原さん!いけません!その者は」女神が何かを言い切る前に僕は真っ黒な空間に飲み込まれた。
そして目が覚めた。
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