★魔王の追撃

「私もお供しましょう」

「必要ない。お前はここで俺が如何に勇者どもを殺すか見ているがいい」


 ガタカの手元には水晶があり、それで外の世界を覗き見ることができる。直接その場所に行くことなく、状況を見守ることが可能だ。

 わざわざ側近を連れていくこともないと、魔王ユキトは高笑いし、引き留めようとするガタカを振り切って転移魔法を使う。

 転移魔法は、行ったことがある場所もしくは気配を感じる場所へ一瞬で移動できる魔法である。

 勇者とまだ対峙したことがないため、その気配を感じることはできない。なので、ユキトはガタカの水晶に映し出された光景を見てから、己の記憶を探り予測地点へ飛んだ。


「移動した後か」


 人を見れば襲えと命じているので、勇者一行が通った後は魔物の死骸が目印のように放置されている。死骸を食べる魔物もいるが、勇者一行が倒す魔物が多すぎて処理が追い付いていないようだった。

 

「ファイア」


 ユキトが唱えると手の平に煌々と火の塊が現れる。

 ファイアは初歩の火の魔法に過ぎないが、魔力の高い彼が使うとその威力は高位の火の魔法と同等の威力を持つ。

 その場にガタカが居たならば止めるはずだ。

 ユキトはまるでボールを扱うように連なる魔物の死骸へ、火の塊を投げる。

 弾けたような音がして、死骸が燃え上がる。

 炎は草花、木々を巻き込み、森を焼いていく。

 小さな魔物、動物たちが慌てふためいて表に出てくる。

 森は彼らにとっては大事な家だ。

 そして魔界の王ーーユキトにとっても大切な所有物のはずだった。

 けれども髑髏の仮面の下、彼は唇の端を引きつらせて笑みを浮かべていた。

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