第一幕 亀になったオオカミ

第1話 確かにオオカミだった

 ある晴れた暑い夏の日のこと。木々がかさかさと音を立てる。

 ジリジリと照りつける太陽の下、いつもの様に猟師は狩りへと向かう。

「今日はどんな獲物が取れるかなー。」

 猟師は突然歩みを止めた。

「ん?ここの家いつもなら電気がついてるのに今日は電気ついてないぞ。

 寝たきりのおばあちゃんが住んでいるはずなのにどうしたのだろう。」

 コンコン

「お邪魔します。」

「あらまぁ誰が来たんだい。」

「ここのエリアを担当している猟師です。

 おばあちゃん具合、大丈夫ですか?」

「あぁ大丈夫じゃ。」

「おばあちゃん少し太ったかな。

 前はこんなにお腹出てなかったはず。」

 猟師はおばあさんに聞かれない様に呟く。

「おばあちゃん!

 お昼なに食べましたか?」

「赤ずきん…あぁ違う赤ずきんちゃんが持ってきてくれたパンをおいしくいただいたよ。」

「それだけですか?」

「どうも食欲がないもんでね。」

「食欲ないのにどうしたらそんなにお腹が膨れるんですかね!」

 猟師は語気を強めた。一瞬おばあさんがたじろぐ。

「これは湯たんぽじゃよ。」

「こんな真夏にそんな嘘が通じると思うのかオオカミめ!」

「なぬっ。夏でも湯たんぽ使う人は使うの!

 最近年のせいか夏でも寒いんじゃ。」

 猟師は確信した。

「もしや赤ずきんちゃんとおばあちゃんが⁉︎

 今すぐ助けますからね!」

 猟師がおばあさんに扮したオオカミのお腹を切り開くと中から2人の人間が出てきた。

 洋服が溶けかけた赤ずきんと本物のおばあさんだ。

「猟師さんありがとうございます!」

「あんたさんがいなかったら私らは今頃消化されていたよ。ありがとう。」

 赤ずきんがおばあさんを見て目を丸くした。

「あれっおばあちゃん病気で足が不自由だったはずなのに歩いてるよ!」

「あらまぁほんとやねぇ。

 オオカミさんのおかげやねぇ。」

 なんとも呑気なおばあさんである。

「病気治ったのはいいとしてあなた方を食べようとしたんですよ!

 懲らしめなくてはなりません。

 そうだ、この家の周りに落ちている石をお腹に詰めましょう。」

 猟師は家を出て、持っていた獲物を入れるための袋に石を詰め始めた。




「オオカミの石詰めはおいしいのかい?」

「おばあちゃん、私たちがオオカミ食べちゃったらオオカミさんと同罪になっちゃうからそんなことしちゃいけないよ。」  

「ではみんなで石を詰めましょう。」

 なんとも非情な猟師であったが、やはり自分達の身を守るためには仕方のないことなのだろう。

「やめてくれえええ。」

 オオカミの必死の抵抗も虚しくお腹に石が次から次へと詰められていく。

「オオカミさん、石はおいしいですか?」

 赤ずきんの素っ頓狂な問いかけがオオカミに降り注ぐ。

 孫が孫なら祖母も祖母。

「味付けでもしますか?

 胡椒ラー油七味タバスコがありますよ。」

「辛いものばっかりやめてください…」

「おばあちゃんさすがに鬼畜がすぎるよ。」




「ではお腹を縫い付けて湖に沈めに行きましょう。」

 猟師が器用にオオカミのお腹を縫い付けていく。




「では。」

 オオカミが猟師の手によって湖に落とされた。

「さようなら、オオカミさん。」

「元気でね。」

 ブクブクブクブクブクブク

 冷たい水の中太陽の光が少しずつ吸い込まれていった。

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