第51話 十傑会議に向けて2

「とりあえず召喚してみない? このままだと話進まないでしょ」


「確かに。とりあえず試すだけ試してみるか……」


 このままうだうだ言っていても時間が過ぎるだけで勿体無い。

 俺の魔力的に階級が低過ぎるアウラはそもそも召喚されないように調整できるので、第二級以上のアウラが召喚されるように魔力を込める。


 学園が用意している召喚の魔道具で行うと、最下級のアウラも召喚されるが、自分で魔法陣を描き魔力を込めると自分の呼びたい階級のアウラを呼ぶことができるのだ。

 ただこれを行うには術者自身に相当の技術がないといけないのと、魔力の質が低いと普通に下級のアウラが召喚されてしまうため、結局魔道具を使ってやった方が効率がいいという人の方が多い。


 ただ俺は自分で魔法陣を構築したほうが一発で目的の階級のアウラを召喚できるため、それを実践してアウラを召喚することにした。


 さて、何が出てくるのかな……


「こんにちはっ! あなたが私のご主人様候補ですか?」


「君は……妖精かな?」


 俺の魔法陣から出てきたのは全長30センチもないであろう可愛い妖精の女の子だった。

 一目見て妖精だというのはわかったんだけど、ここで俺は少しだけ違和感を持った。


「ハイっ! 私の名前はリンです。5級のアウラですよ〜」


「よろしくリン。……5級?」


「はい。リンは5級です」


 おかしい。

 きちんと2級以上のアウラが出てくるように調整したのにも関わらず、5級のアウラであるリンが召喚されてしまったのだ。

 俺の調整が失敗したのかと一瞬思ったけど、魔法陣の構築を見ても、魔力の調整量を確認してもきちんと2級以上のアウラが召喚されるようになっている。


 どう考えてもイレギュラーなのだけど、そんなことはお構いなしにリンは召喚されて喜んでいるようだった。

 妖精にしては珍しく、俺の魔力を見ても全く嫌がることなくずっと俺の髪の毛を触って遊んでいる。


「……どうしよう可愛い」


「やった! ご主人様に褒めてもらったです! リンは可愛いです!」


 今まで妖精に懐かれることなんてなかったせいか、リンのことが可愛くて仕方がない。

 このままたくさんリンのことを愛でてあげたいけど、俺のことを見ている朱音たちの視線の温度が現在進行形で下がってきているため一度咳払いをして仕切り直すことにした。


「だけど珍しいのは確かよね。蒼の魔力を見て怯えない妖精は初めて見たわ」


「そういえば、一番最初の授業の時は精霊に怖がられてたね」


「案外5級以上の力を持っているのかもね。それで、蒼はどうするつもりなの?」


「ん〜このままリンと契約しようかな。正直、もしアウラ同士の戦闘になったら俺がリンのことをサポートできるし、とにかく俺のことを怖がらないアウラは貴重だしね」


 もし本当に戦うことになっても、その時は俺ではなくて他のみんなに頼めばいいし、最悪俺がミカエルたちの力を引っ張ってきてなんとでもできるため、このままリンと契約することにした。


 それに、俺の直感が言っている。


 リンは絶対に5級以上の力を持っているはずだ。

 もし能力自体は5級程度だったとしても実戦ではそれ以上の活躍ができるはずだ。


 というのも、今も俺の頭の上で呑気に遊んでいるように見えて、しっかりと周囲のことを警戒しているし、すぐに戦いになっても問題ないようにしっかりと魔力を練り上げている。

 しかもすごいのがそれをあかねたちに悟らせていないということだ。


 普通なら少しでもその気があれば、朱音たちの誰かには悟られて逆に警戒されるという状況になるはずなのだが、リンの場合は本当に誰にも悟られることなく状況の把握がなされていた。

 

「へっへ〜楽しいです!」


 まぁ普通に考えてこんな可愛い精霊がそこまで警戒しているとは思わないから仕方がないといえば仕方ないのかもしれない。

 リンのこういった無邪気なふりをできるところはある意味才能なのかもしれない。

 

「リン、俺と契約してくれる?」


「もちろんですっ! ご主人様ならリンも楽しめそうです。これからよろしくお願いしますね!」


「こちらこそよろしくね」


「えへへ〜。ご主人様の近くにいるとポカポカします!」


 無事、俺とリンの契約が成立すると、リンはそのまま俺の肩に座り楽しそうに鼻歌を歌っている。

 うん。めっちゃ可愛いわ。

 

「これで全員無事アウラと契約できたね。本当に助かった」


 葛木先生も一安心と言った様子であった。

 当日の進行はほとんど宗一郎に任せてあるそうなので、俺たちは席に座って話を聞いているだけで済みそうだ。


「リンちゃん。私の名前は朱音。よろしくね」


「はい! よろしくですっ!」


「私は琴葉よ。リンちゃん可愛いね」


「私は佳奈だよ。よろしくね」


「私は透。リンちゃんこっちおいで〜」


 リンは女性陣にも人気のようで、透が手招きしてリンのことを呼ぶと、四人の周りを飛びながら自己紹介をし始めた。

 最初は警戒していたリンだったけど、しばらくするとその必要性がないことが分かったのか、素の状態で朱音たちと戯れていた。


 女の子同士、分かり合えることもあるのか、帰る頃にはすっかり友達になっていて、俺の肩じゃなくて朱音たちの周りを飛んでいるようになっていた。


 ちょっとだけショックである。


「俺のリンが取られた……」


「馬鹿言ってないで蒼は明日の対策を考えときなよ。万が一もあるんだから」


「宗一郎に任せておけば大丈夫でしょ。俺たちが出る幕ある?」


「なんでも上級生の十傑が俺たちに興味を持ってるらしいぜ。入学式の時も何人かは参加してたらしい」


「十傑って暇なの?」


「まぁ実際僕たちも結構暇だしね。暇なんじゃない?」


 確かに、現状十傑である俺たちも結構暇だから、意外と上級生たちも暇なのかもしれない。

 でも入学式の様子を見られているとなると、俺と毬乃さんのパフォーマンスも見られていたのか……学園長と関わりを持っているってだけで警戒されてしまったのなら、まさに貧乏くじを引いてしまったとしか言いようがない。


 その時は宗一郎に擦りつけることにしよう。


 我ながら妙案を思いついてしまったようだ。


「何が妙案だよ。自分でなんとかしようよ」


「そうだぜ。あんまり宗一郎をいじめんなよ」


「なんでお前ら宗一郎の味方なんだよ。普段はそこまで肩入れしてないじゃん」


「「え? だって合コンセッティングしてくれるらしいし」」


「俺たちに友情はなかったのかっ!」


 合コン? 俺呼ばれてない!


「っていうか、お前ら女子に興味なかったんじゃないの?」


「最初はな。最近は学園生活にも余裕出てきたし、そろそろ恋愛の一つくらい経験しとくべきかなって」


「思い返してみれば僕たちまともに恋愛とかしてこなかったしね。高校卒業して政略結婚する前に自由恋愛してみたいなーって」


 確かに、俺たち四人ともまともに彼女はいたことはない。

 でもまさか俺を省いてそこまで話が進んでいるとは思ってなかった。


 絶対に俺も参加してやる。


「蒼はやめといた方がいいと思うよ。ティアさんたちが許さないと思うんだけど」


「あー……」


 ティアたちは極端に自分たちが知らない女の子が近くにいることを許さない。

 透の時はほとんど奇跡のようなもので、普段であれば絶対に許してくれない。


 なんでも、「蒼にはまだ早い」だそうだ。

 俺ももう高校生なんだし、恋愛の一つや二つはしてみたいんだけど、確かに今回はパスしておいた方が良さそうだ。


「はぁ……仕方ない。今回は見送るよ。お前ら絶対に仕留めてこいよ」


「おう! 任せとけって」


「まぁゆるっと楽しんでくるよ」


 なんだかんだ言って、こいつらも俺の大事な仲間だ。

 親友たちに彼女ができるというのは確かに嫉妬もあるけど、それ以上にめでたいことでもある。


 是非とも、いい女の子と出会ってきて欲しいものだ。


「ちなみに、合コンっていつなの?」


「「え? この後」」


 俺はそれを聞いて盛大にズッコケてしまったのだった。

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