第42話 透の覚悟2

ーー透へーー


 これを読んでいるってことは光田くんが暴れて、まさに今危機的状況なんだと思う。

 初めに言っておくけど、今回はミカエルに何かを頼っても無駄だから諦めてね。もし、透が失敗すれば多くの犠牲が出る。これは自覚しておいてほしい。

 

 って、ちょっと意地悪かもしれないね。


 もし、無事に透が帰って来れたら一発くらい殴られて文句は言わないよ。


 透。今、そこで戦えるのは透しかいない。

 ここで勇気を出さなければ、一生戦えないままだ。俺も実は戦うのはすごい苦手だけど、それでも今一生懸命戦って、多分毬乃さんに勝った後だと思う。

 俺だけじゃない。宗一郎も朱音も琴葉も佳奈も、龍之介も湊も全員どこかで歯を食いしばって頑張っている。

 

 そんな俺たちと、今後一緒に歩みを進めていくには、透もどこかで覚悟を決めないといけないんだ。


 俺はそれが今だと思う。


 透、心に火を灯せ。

 大丈夫。二週間、一番近いところで透を見てきたからわかるけど、お前なら絶対にできるよ。

 閻魔と全力で向き合え。


 そしたら、閻魔も透のことをわかってくれるさ。


 そうだな……もし、透が無事に閻魔と正式な契約を結んで、そして誰一人として犠牲者を出さずに帰って来れた時には、何か一つなんでもいうことを聞くよ。


 だから、頑張れ。


 最後にもう一度だけ……透なら絶対にできるよ。


 俺はそう信じてる。


ーーイケメン男子蒼くんよりーー


「何これ、本当に蒼ってば……馬鹿なんだから」


 私が手紙を読み終えた瞬間、ミカエルさんの気配は消えた。

 そして、ようやくデモンが復活し、また私に何か魔法を使ったみたいだけど、もう怖くないよ。


 ここまで無責任でバカな人、初めてだけど……そんな無責任な言葉にときめいて、心に火が灯ってしまった私はもっとバカな女だ。


 いいだろう。

 そこまで蒼が信じてくれてるんだ。


 心に火を灯せ!


 さっさと私の気持ちに答えろ! 


「仰せのままに、マイマスター」


 私が心の中でそう叫ぶと、今までの閻魔とは違う、覇気のようなものを纏って具現化した。

 身長も少年から青年サイズへとなっていて、今まで見ていた閻魔とは全くの別人のように感じられたけど、目や髪の毛といった特徴から閻魔だとわかった。


「閻魔?」


「そうだよ。ようやく本気の僕を見せることができるよ。透に必要だったのは覚悟と情熱。蒼のことを好きっていう気持ちが、僕を動かしたんだ」


「っ!」


 そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかなっ⁉︎

 別に好きじゃないし。

 ちょっといいなって思ってるだけだし。


「照れなくてもいいのに。君も蒼に火を灯されたんだね」


「君もってどういうこと?」


「朱音たちも一緒ってことだよ。透、こんなところで負けてられないよ?」


「……そうみたいだね。蒼からは誰一人として死なせなければ、なんでもいうことを聞いてくれるらしいから頑張らなきゃ。もちろんできるよね?」


「当たり前じゃん。僕を誰だと思ってるの? 泣く子も黙る閻魔だよ」


 私の挑発的な言葉に、閻魔はニコッと笑って自信満々にそう言い切った。

 さて、この茶番をさっさと終わらせよう。

 私はもっと強敵たちと戦わなきゃいけないんだ。


 いつまでものうのうと過ごしている白髪の男の子を相手にしなくちゃいけない。


 待っててね。私は待ってるだけの女の子じゃないんだからね?


「いい顔になったね」


「お、お前は誰だっ!」


「口を開くな愚民が。自らの愚かさを知れ」


「ぐっ!」


 野口くんは、そのまま何も言えずに地面に突っ伏した。

 さすが閻魔。言霊だけで相手を操っているみたい。


「くそがっ! 死ねっ!」

 

「閻魔、今回のミッションは誰も殺しちゃいけない、だからね」


「わかってるよ。闇の上級精霊なんて殺す価値もないよ」


 デモンが私に向かって攻撃してこようとしているけど、それを閻魔が許すはずがない。

 1秒後には野口くんの隣で一緒になって地面に突き刺さっていた。


「これでおしまいっと」


「さすが閻魔。皆も危険な目に遭わせちゃってごめんね!」


 閻魔が二人を封じ込めて数分もしないうちに、先生たちが二人の身柄を拘束してくれたおかげで、ことなきを得た。

 結局、最初から最後まで茶番のような出来事だったけど、私にとっては大きな一歩を踏み出せた大事な思い出だ。


 あんな適当な手紙一枚で、なんでもできるような気持ちになってしまう私もどうかと思うけど、そんな自分も悪くない。

 今まで恋愛なんてしてきたことなかったけど、今から初めてその一歩を踏み出したいと思う。


 相手は強敵だ。


 なんて言っても、普段から美女に囲まれて過ごしている男の子なんだから。

 私の顔が多少良かったところで何もプラスになることはない。

 それ以外に自慢できるところ……そうだな。この熱をそのままあいつにぶつけてやればいいんだ。


 嫌われちゃったら一週間は泣く自身はあるけど、このままうじうじしてても仕方がない。

 ただでさえ、朱音たちよりも蒼と出会った期間が短いんだから、頑張ってアピールしないと!


「では、トラブルもありましたが皆さんの試験は終了します。明日、皆さんの携帯端末の方に結果を送りますので、二日後には指定されたクラスに移動するようにしてください」


 先生の解散の言葉を聞くと同時に、私は周りの子たちが反応するよりも先に訓練場を出て蒼たちのいる場所に向かう。


「出雲さんは少し残っていただけると……」


「用事があるのでごめんなさい!」


 先生が何か話したそうにしていたけど、今はそれどころじゃない。

 あのままゆっくりしていると他の子達にまでいろいろ聞かれて、帰れなくなっちゃうところだったし、先生には悪いけど、また今度にしてもらおう。


「透、嬉しそうだね」


「まぁね。閻魔、これからよろしくね」


「こちらこそよろしくね。蒼のことなら僕も少しは知ってるからなんでも聞いてね」


「知りたいことは私から聞くからいいもーんだ。それより早く行こっ!」


 こうして、私は閻魔と一緒に蒼たちの元まで走って行くことになった。

 今日は少しだけ大変だったけど、とてもいい一日になったと思う。


 さーて、蒼に何してもらおうかなーっと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る