閑話 葛木と柊木の夜

 蒼がティアマトたちといちゃついている同刻、とある一室では、葛木と柊木が対面に座りながらお酒を飲みながら談笑していた。

 昔から交流があった2人ではあったが、今日みたいにこうして一緒にお酒を飲むと言うのは非常に珍しい。


 今日、久しぶりに2人が再開したと言うのも一つの理由だがもう一つの理由は模擬戦の内容についてお互いで話し合いたかったからだった。


「それにしても、今年の十傑は異常だよね。初日には魔法も使わずに刃物を持った50人を相手に圧勝するし、今日は訓練場を壊しそうになるし」


「あれでアウラも贈り物も使ってないゆうねんからあの子らはほんまにすごいよ。軍の中でもあのレベルの戦いができるのはそうそうおらんな」


 振り返るのは今日の模擬戦。

 現役のS級魔法師である柊木でさえ、見入ってしまうほどのあの戦いは蒼たちが思っているよりも遥かに高次元のものだったのだ。


 本人たちは戯れあっているだけのつもりだったのだろうが、見ている方としては突っ込みたくなる気持ちしかなかった。

 葛木も柊木も何度止めに入ろうかと迷ったほどである。


「武田くんと橘さんの試合からは僕も予想外やったしな。なんやあれ武田くんは武田くんで頑丈にも程があるし、橘さんは橘さんで作戦が緻密やし」


「僕も武田くんの身体捌きは昨日見てたけど、橘さんもあそこまで戦えるとは思わなかったよ。彼らのデータは全く当てにならなさそうだね。こんなことなら強制的に適性検査の結果を確認しておくべきだった」


「まぁ、多分断られるやろうけどな。僕の勘やけど、今年の十傑のうち第七席の子以上はみんな厄災級のアウラと契約してるわ」


「……全世界で300しかいないうちの7体が1年生と契約してるなんてね」


 葛木と柊木は今日だけで数え切れないほどのため息を吐いてしまう。


 第一級から第十級までは明確なランキング制度はないが、厄災級に関してはその限りではない。

 神が定めた全世界の上位300位。

 その中の7体がすでに獅子王学園の一年生と契約しているなど、仮に外の世界に悟られでもしたら大量のスカウトマンがこの学園に押し寄せてくるだろう。


 それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。


「何が厄介って、彼らみんな名家の出なんよな」


「何かあれば出張ってくるだろうね。まぁ、その時には一条くんにでも頼もうか」


「一条……あぁあの子か。お家的は一番の名家やもんね」


「それもあるけど、多分彼があのグループの中心だからね。一条くんをどう動かすかによって彼ら十傑の動きが変わってくるはずだ」


「へぇ〜よう観察しとるね。僕はてっきりあのグループの中心は北小路くんかと思ってんけど……一条くんはどちらかというと道化やろ」


「確かに。君も親近感が湧いたんじゃない?」


「まぁね。小芝居してくるタイプの子は好きやで。今日の模擬戦もMVPは間違いなく一条くんやしな」


「まさか超級魔法を無詠唱で発動させるとはね。あれは流石に僕でもできないな」


「アウラ抜きやと僕でも難しいよ。北小路くんの魔法も威力が高かったけど、あれをうまく相殺させた一条くんには思わず目を疑ったわ」


 超級魔法なら宗一郎も使っていたが、そもそも宗一郎はきちんと詠唱をして発動させていた。

 それに対して、蒼は無詠唱でなんの動作もなく急に超級魔法で宗一郎の『水龍』を相殺させたのだ。


 魔法はランクが上がるともちろん魔力量も技量も格段に上がり、超級魔法となるとS級魔法師でも無詠唱では難しくなってくる。

 それを当たり前のようにこなしていた蒼に葛木も柊木も戦慄を覚えた。

 

「その前までの戦い方も面白かったしな。まだまだあの子らの底が見えんわ」


「どこかのタイミングでアウラを使わせたいね」


「そうやな。僕もできるだけあの子らのそばに居たいけど、なんせ軍がそれを許しそうにないわ」


「君はS級魔法師。軍の顔だからね。あまり自由にさせたくないんでしょ」


「僕なんて名ばかりやねんけどなぁ。僕も君と一緒に学校の先生になればよかったわ」


 柊木はそんなことを呟きながら酒を一気に煽った。

 

 今の柊木の興味は全て蒼たちに向いているため、多分このまま軍に戻ってもろくに仕事をしないだろう。

 それは目の前で酒を飲んでいる葛木にもよく分かった。


「……僕が学園長に進言してみるよ。彼女なら軍にも発言権があるはずだ」


「ほんまに! そりゃあ助かるわ〜。よっしゃ! そうと決まれば僕も色々と準備しよか!」


 柊木が自分の副担任につけば、蒼たちをもっと成長させることができる。

 どこまでも担任として蒼たちのことを思う葛木であった。


「……ほどほどにね」


 急に部屋を出て行ってしまった柊木に葛木は呆れながら残りのお酒を一気に飲んで、目の前に広がる夜景にうつつを抜かすのであった。

 

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