第2話 なんで日本語喋れるの!?


はぁ……Fクラスかぁ。

憂鬱だなぁ。

僕はしぶしぶ、重い気持ちでFクラスの扉を開ける。

すると、ちょうどそのとき、教室から外へ出ようとしていた生徒と、ぶつかってしまう。


――ドン!


「いたた……」


「あ、ごめんなさい……!」


ぶつかったのは可愛らしい女の子だった。

見たこともないような顔つきで――外国人かな?――珍しい風貌だけど、すっごく可愛い。

赤っぽい髪の毛をポニーテールにして結んでいる。


赤い制服と相まって、とても似合っているね。

それにしても……ぶつかったせいで下着まで見えてしまっている。

僕は手を差し伸べるけど、彼女は座ったまんまだ。

どうしたんだろうか……?


「あの……大丈夫ですか? どこか怪我でもしましたか?」


僕は問いかけるけど、彼女は口を開けて驚いた顔を見せるのみだ。

そんな、お化けでも見たような顔をされてもなぁ……。


「日本語…………」


「え? 日本語…………?」


聞いたことない言語だけど……?


「どうして喋れるの!? あなた何者!?」


「うわぁっと……!」


女の子は急に立ち上がり、僕の肩を掴んで揺さぶる。

元気な子だなぁ。


「ええっと……たぶん、僕のスキルのせいだよ」


「スキルのせい……?」


「うん、僕の固有スキル《範囲自動翻訳》の効果だね。僕の近くの人の喋る言語を、勝手に翻訳してくれるんだ。まあ、この超大陸じゃまったく使う機会がないけどね……」


「そうなんだ……」


だからまあ、固有スキルなんてないようなものなんだけど……。

どうやら初めてこのスキルが役に立ったみたいだね。

でも、ノイアール語を話せない人なんて今どき珍しい。

超大陸の外の人たちでも、ノイアール語を話せるようになってきているらしいし。


「君は、どこから来たの? あ、自己紹介がまだだったね。僕はレイン・シュトレンフィード」


「わ、私はアスナ・ナナミ。日本……そう、異世界から来たの……って言っても、信じてもらえないでしょうけど……」


「えぇ!? 異世界人!? ほんとに!? すごいなぁ……!」


「し、信じてくれるの……!?」


「まあ、君のような感じの子はみたことないしね、それに、ノイアール語を話せないなんてのも、異世界人じゃなきゃありえないし……」


「ありがとう。ようやく言語が通じる人に会えたわ……。よかったぁ……」


女の子――アスナさんは、ほっとしたのか、へなへなとその場に座り込んでしまった。

きっと、見知らぬ土地に来て、言葉も通じずに、心細かったに違いない。

ここは僕が彼女をサポートして、支えてあげないと!

まずは友達になるんだ。


「あの、アスナさん」


「え? なに?」


「僕とまずはお友達からでいいんで、結婚を前提に付き合ってください」


「はいいいいいい!?」


どうしてだろうか、僕は普通に友達になってほしいと、心からの思いを伝えただけなんだけどな……。

なぜかアスナさんは、顔を真っ赤にして驚いている。

そう、まるで婚約を申し込まれたかのように――。


「どどどどどどどういうつもりなのあなた!? 出会っていきなり求婚を申し込むなんて!」


「えぇ!? 僕そんなことを!? おかしいな……このスキル《範囲自動翻訳》はまだ完ぺきじゃないみたいだよ……。今まで一度も使ってこなかったから、スキルレベルが1のままなんだ。そのせいで、おかしな翻訳になることがあるみたいなんだ……」


「な、なぁんだ……そういうことね……。通訳の代わりに嫁になれとか言い出したのかと思ったわ……」


「そんなことしないよ! ただ、僕は君と友達になりたいだけなんだ」


「わかったわ。私も、あなたと一緒にいた方が都合がいいしね。よろしくね、レイン」


「うん、よろしく……アスナ」


こうして、僕は入学してすぐに友達ができた。

しかも、なんと異世界人の女の子だ。

Fクラスに来たのも、案外悪くなかったと思える。


アスナはそれから、僕に握手を求めて、手を差し出してきた。

どういうことだろう……?

これが……文化の違い、って……やつなのかな?


「どうしたの? レイン?」


「いや……その……アスナのいた世界ではどうかは知らないんだけど、少なくともこの国では、あまり男女で握手なんかはしないんだ……。その、恋人でもない限りは」


「そ、そうなんだ……ごめんなさい。じゃ、じゃあ……ここではどうやるの?」


そう、この国では、男女で友情の握手を交わしたりなどはしない。

握手は恋人同士が、信頼関係を確かめるためにするものだ。

こういったときに、僕たちがすることといえば――。


「へ!? ちょ、ちょっとレイン! なにするのよ……!」


「え? でも……僕たちの国ではこうするんだけど……?」


僕が急に頭を撫でたからか、アスナは驚いて、また顔を真っ赤にした。

どうやら彼女の国では、こういうことはやらないらしい。


「そ、そうなの……? 本当なんでしょうねぇ……?」


「ほんとだよ。これが男女で友情を確かめる行為なんだ」


「な、ならまあ……いいけど……」


なんだか頭を撫でただけで、こんな反応をされるなんて……。

異世界人の女の子っていうのも、新鮮でかわいいな。

僕たちは教室に戻り、隣の席に座った。

これからの学校生活、楽しくなりそうだ――!

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