81限目 まゆら発狂

 リョウは部屋に入ると椅子に座りすぐに、イヤホンをつけ繋がっている機械の電源を入れた。

 机に教科書を出しペラペラとめくりながら、イヤホンから流れる音を聞いていた。


 レイラが持っているまゆらのメガネの盗聴器は本来リョウが持っている機械セットの物ではないためある程度距離があると聞こえないし録音もできなかった。だから、まゆらも持っているレイラのメガネの盗聴機の内容を録音して毎晩確認した。


「う〜ん。なにもない日常ですね」


 リョウがイヤホンを取ろうとしたその時。


『ふざけんなぁ。なんだ、これは』


 大きな怒鳴り声が聞こえた。その声に驚き勉強の手を止めると時間を確認した。


「査問会が終わった後の時間ですね?」

『ありさって誰だ? ……桜花会の人間? えっと、へ、なんで、ちょ、なにしてる』


 イヤホンから聞こえてくる声にリョウは眉を寄せた。


「河野さん、妹の眼鏡につけた盗聴器を聞いてるのですよね。それしかないですし、亜理沙とレイラが話をしてる場面?」

『大道寺さん。これ、聞いてますよね。やばいです。お互いに好意があるかは分かりませんがキスしてます。どうやら、レイラさんからしたようです』

「なんだって」


 思わず大きな声が出てしまい、リョウは慌てて口を押さえた。


『レイラさん、ありさという女に対して恋愛感情があるのですか? レイラさんの対象は女の子なんですね。つまり、私にもチャンスありますね』


 先程まで、叫んでいたまゆらの声が楽しそうなものに変わると、リョウはため息をついた。


『え? なに?マジでか』


 また、まゆらの声の調子が変わった。


『“ありさ”という女は“けいご”という奴が好きみたい』


 そして、しばらく沈黙が続くと。また、まゆらの悲鳴のような声がした。


『はぁ? なんでデートに誘うの? 大道寺さん。コレ聞いてますよね。レイラさんのデート必ず阻止してください。もしくは同行願います。そして、いつもの時間にいつもの場所で待ってますよ』

「デート? あぁ、さっき私も誘われたやつですね」


 そこまで、声はなくなり生活音が聞こえ始めたので、リョウはイヤホンを耳から外してため息をついた。


「レイラさんは……」


 リョウが頭ふり、またため息をついた。そして、教科書に視線を落とし勉強を始めた。

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