第13話 冒険者ギルド

「ふぁああ……ねむ……」


 俺は外から指す太陽の光で目を覚ます。

 

 俺の胸元には、カスミがアホ面で幸せそうに眠っている。


 俺達は大通りから少し外れた、良心的な価格の宿に泊まった。

 あまり綺麗ではないが、しばらくリドウェルを拠点にするのなら丁度いい額だ。


 ベッドが一つしかないが、それはヴァーミリアの屋敷に居たときからだから問題ない。


 俺はカスミを起こさないようにしてベッドから這い出る。

 窓を開け、清々しい空気を部屋に充満させる。


 目の前の通りは余り人通りはないが、少し離れた所にある大通りから、ざわざわと喧噪が聞こえてくる。


 さて、午後には冒険者試験だ。気合いを入れて行こう。


 俺は服を着て、装備一式を身に着けると外へ出る。

 カスミを無理に起こすわけにもいかないから、もちろん持っていくのは屋敷からこっそりと持ってきた愛用の古びた剣だ。あぁ、早くもう一振り必要だな……。


 宿の裏手にある空き地で、日課の素振りを始める。一振り一振り、それ一撃で相手を仕留められるようイメージしながら。


 今日から始まるのだ。俺のリドウェルでの生活が。


「ふっ……ふっ……!」


 汗を垂らしながら、一心不乱に剣を振るう。


「ふぅ……こんなもんか」

「朝から凄いね」


 と、少し前からこちらを見ていた少女が話しかけてくる。

 赤毛でショートボブ。身長はカスミより少し高いくらいか。


 彼女は屈託のない笑顔で、手持ちの布を渡してくれる。


「あ、ありがとう」


 俺はそれを受け取り、汗を軽く拭く。


「剣術?」

「うん」

「わー凄い。魔術の訓練してるのを見た事はあるけど剣は初めてだ。凄い真面目だね」

「まあ強くならなきゃいけないからね」


 どうやら水汲みの途中だったようで、彼女の手には水が入った桶が握られている。

 朝の日課……この人も一緒か。


「凄いなあ。冒険者?」


 彼女は下から俺の顔を覗き込むように見上げる。


「いや、それはこれからかな。この後試験を受けるんだ」

「わあ! じゃあ受かるよう祈ってるね!」


 そう言い、彼女は祈る仕草をして見せる。


「えーっと、ありがと……」

「名前は?」

「ホロウ。君は?」

「私はリリカ。そこの宿で働いてるの」


 リリカが指したのは、俺が泊っている宿だった。


「あっ……だからか」

「ふふ、昨日から知ってたよ。同い年くらいなのに凄いなあって」

「いやいや……」

「この街は冒険者のおかげで盛んだからね」

「宿も儲かってると」

「あはは、冗談冗談。でも、気を付けてね。冒険者って危険な職業だから。死なれちゃったら、せっかく部屋を借りてくれる人が減っちゃうからね~」

「なっ!」


 リリカは、悪戯っぽくクスクスと笑い、ウィンクする。


「これも冗談。試験頑張ってね!」


 そう言い、リリカは宿へと戻って行く。


「あっ、返してないや」


 俺の手には渡された布が。まあ同じ宿だし後で洗って返そう。


 なんか……やる気が出たな。

 爽やかな朝だった。


◇ ◇ ◇


「ないない! そんなもん売ってねえよ! 忙しいから他当たってくれ!」

「刀? 知らないわね。それよりどう、カトラスなんて。今朝仕入れたばかりなのよ。これはジルゴラの方から――」

「刀だぁ!? そんなもん作れるか! この国じゃあそんなもん作れる奴は多くねえぞ、他当たりな」

「へえ、刀ねえ。うちでは扱ってないが……あぁ、どうだろうな。ジェスの店ならあるかもしれねえな」

「オッドがうちを? あぁ、いや、素材を調達して貰っても作れないな。刀は結構製法が特殊なんだ。作れる奴は居るかもしれないが……悪い、俺じゃあ無理だ」


 様々な武器屋や鍛冶屋を回ったが、結局刀を扱っている店を見つけることは出来なかった。


「リドウェルでは売ってないのかなあ……」

「そうだね……。刀がここまでレア武器だとは……私も驚いちゃった。もしかして私ってレア物!?」

「妖刀なんてレアもレアだろうさ……。はぁ、地道に探すしかないか」


 カスミと二人、大きく肩を落とす。

 カスミを使うんだから別に必要ないっちゃないんだが、やはりもしものためにもう一本は欲しい。


「ま、冒険者ギルドの人たちなら何か知ってるかも。使う側の専門家たちだし」

「だといいね。――あ、あれ美味しそう! 買って買って!」

「……はぁ。ま、昼飯時だし買うか」


 俺たちは持ち運び易い包に入った肉を食べながら、冒険者ギルドへと向かって歩く。


「試験ってどんなのだろうな」

「人数調整って言うくらいだし、そこそこ厳しいかもね」


 もぐもぐしながらカスミは言う。


「そうだよな。でも、楽しみだぜ。俺の力を測れるいい機会だ」

「うんうん! ホロウならいけるよ! なんせ、私の訓練を受けた剣豪だからね」

「当然! それに実戦ももう経験したしな」


 そうこうしているうちに、俺達は冒険者ギルドへと到着する。

 カスミを刀へと変形し、腰の鞘にしまう。


 扉を開け、中に入る。

 昨日ぶりだが、今日も冒険者ギルド内は賑わいを見せている。


 ギルドの依頼掲示板には人が集まり、順々にカウンターへと依頼書を見せに行く。

 

「――あ、ホロウ君! こっちこっち!」


 手を振って元気よく声を張るのは、一番右の受付に立つ金髪で露出の多い女性――キルルカさんだ。


『でたな、おっぱい女』


 なんてこと言うんだ……。


「あ、どうも」

「すぐ来てくれたんだね! よかったよ~」


 キルルカさんは嬉しそうに笑う。


「冒険者になりに来ました」

「やったー! 君の力なら合格間違いないよ! いきなり大物の首取ってくるような少年なんてそうそういないからね!」


 キルルカさんはウィンクし、大きな声で楽しそうに言う。

 あぁあぁ、めっちゃ注目されてる……。


「ど、どうも……」

「うんうん! じゃあ早速だけど。手続き初めていいかな?」


 俺は頷く。


「冒険者試験はいつでも受けることが出来るわ。受験料は金貨一枚。試験内容はギルド側で調教した魔物の討伐。それに合格したら二次試験として指定の野生魔物の討伐試験。この二つに合格すれば晴れて冒険者よ」

「なるほど」


 調教した魔物で最低限の力を見て、その後本番と言う感じか。

 冒険者は必然的に魔物との戦いが多くなる。冒険者として重要な資質と言う訳か。


「一次試験はすぐにこの裏で出来るけど、二次試験は場所を変えてグループで行うわ。ここまでいい?」


 俺は頷く。


「で、一度不合格となると半年間は再受験不可だから注意してね。それと、一次試験はスタッフが助けに入れるけど、二次試験は助けがないから例年多くの死者が出てるわ。それでも問題ないかしら」


 再試験まで半年か。

 まあ俺は落ちないだろうから大丈夫か。


「大丈夫です。死ぬ気はないんで」

「ふふ、さすがね。詳しいギルドの規則なんかは合格してからにしましょう。心の準備が良かったらこちらの誓約書にサインしてね」


 キルルカさんは一枚の紙を差し出す。

 簡単に言うと、死んでも文句言うなとか、不合格なら半年は受けられないぞとか、そんなことが書かれていた。


 俺はささっと自分の名前を書く。


「――はい、大丈夫です。では、行きましょうか!」

「はい!」


 俺はキルルカさんに案内され、裏へと案内される。


 そこは闘技場の様になっており、周りは数人の人間が観客としていた。


「見られるんですね」

「一応見学は自由なのよ。先輩冒険者とか、暇な人とか、冒険者大好きおじさんとか」

「ぼ、冒険者大好きおじさん……」


 なんだ、めぼしい新人を見つけて活躍を追うとかそう言う感じか……?

 暇なおじさんも居るもんだな。


「お、君が今日の試験者か」

 

 と、奥から現れたのは長い青髪を軽くしばり肩に掛けた男だった。


「あ、支部長!」

「やあ、キルルカ。えっと君は――」

「ホロウです」

「盗賊を捉えた期待の新人だと聞いている。どんな戦いをするか楽しみだ」

「……てことは、アルマさん見学されるんですか?」


 アルマさんはニコっとはにかむ。


「あぁ、見せてもらおうと思ってな。活きの良い新人は見ておきたいからね。じゃあ頑張ってくれよ」


 そう言ってアルマさんは観客席へと向かっていく。


「今の人は?」

「あの人はアルマ・メレディス。ここの支部長ですよ」


 支部長か。ということはここで一番偉い人か。


「虹階級、"炎渦"アルマ・メレディス。なかなかの有名人よ。知り合っておいて損はないわ。いきなり目を付けて貰ってラッキーね」


 虹……ってことはカレンたちの二つ上か。

 たしか虹以上は殆ど居ないって話だから相当の手練れか。


「じゃあここから中へ入って。合図したら始まるから、準備しておいてね」


 そうして、俺は闘技場へと入れられる。


 扉が閉められ、完全に俺は孤立する。

 周りは高い壁の観客席に囲まれ、逃げ場はない。


「さて一次試験、さくっと合格しにいこうか」

『れっつごー!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る