白日の筆舌

野口マッハ剛(ごう)

第1話 西谷 大地

 秋が近づいてきたのに、まだ外は暑さを残している。もう九月の半分は過ぎたというのに、たまにセミの鳴き声がする。

 西谷大地という青年は文学に夢中である。いつも通りの図書館にてイスに座り読書を。大地にとっても読書というものは特別なことである。大地の十代の記憶が途中で読書を中断させる。

 大地のとなりのイスに座っている女性の名前は塩田恵。大地とは文学好きの仲間である。恵は健常者である。恵は読書を中断している大地の様子を心配そうに見つめている。

 統合失調症、当事者によっては症状が様々だが、西谷大地という青年も妄想と幻聴によって、十代の時を十分に過ごせなかった一人である。

 青年となった今では症状は落ち着きを見せている。大地と恵は高校時代からの付き合いである。先に統合失調症の話だが、西谷大地自身の障害に対する理解というものは、進んでは崩れ、の繰り返しでもあり、受け入れるのに相当な時間と治療を必要とした。あくまでも、西谷大地は統合失調症の当事者であり、完治はしていない。

 話を戻して、西谷大地と塩田恵は高校時代で共通の趣味である読書から知り合い、今に続く。図書室で二人はひょんなことから文学仲間として現在まで付き合いがある。

 大地は病院のお薬のお陰もあって日々穏やかに過ごせている。もちろん、周囲の人間関係のお陰もある。西谷大地にとっての一番の安心というものは塩田恵という文学仲間が居てくれたことが幸運だとも言える。

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