第24話

「死に顔を見られたくない」


アリアはそう言った。


俺はその願いを聞き入れ、2週間後に集落を出ることにした。


アリアはその間、アルクやクルクたちとともに毎日狩猟にでかけた。獣との戦い方や薬草の知識などの知識を後世に託すためだ。彼女は残りの短い余生のすべてをそれに費やした。


俺もそれに同行した。少しでもアリアの勇姿を目に焼け付けたかった。


アリアは疲れをものともせず、率先してモンスターと対峙した。だが、魔法の威力、キレが弱まっているのは明らかだった。


ーーそして、あっという間に俺が集落で過ごす最後の夜を迎えた。


乾杯後、一通りにの挨拶を終えたあと、いつものメンバーの元へ向かった。

クルクにアルク、そしてアリアである。


「湿っぽい別れはなしにしよう」


アリアはそう言ってエールがなみなみと注がれたコップを手渡した。


4人でガツンとコップをぶつけ合い、エールを一気に飲み干した。


「やはり、トスマンテに行くのか?」


空になったコップにエールをつぎながらクルクは言った。


トスマンテ付近にはダンジョンが複数ある。ダンジョンはモンスターが密集して生息するエリアの総称で、集落の目の前にいる森もまたダンジョンである。


ダンジョンが違えば、モンスターも異なる。戦いから学べることも多いだろう。

アリアとの別れを悲しみつつも新たな出会いを楽しみにしている自分がいた。


「一応、これを渡しておく」


クルクが丁寧に折りたたんだ紙を差し出した。


「ギルドへの紹介状だよ。セツの腕なら、無くても加入できるだろうが、話がこじれたら渡すといい」


「ギルド?」


「冒険者を統括する集まりだよ。ギルドの一員になればモンスター討伐の依頼がそこで受けられる」


「依頼無しでモンスターを狩ってはいけないのか?」


「駄目じゃないよ。ただ、依頼で狩れば報酬がもらえる。狩りに集中したいならなおさらギルドに入るべきだ。素材も買い取ってもらえるし、モンスターの発生状況なんかの情報も手に入る」


俺もこの世界で生計を立てていく必要がある。ギルドに入るのは得策かもしれない。


「心配ない。脅威となるモンスターの出現は必ず依頼となる。ギルドで功績を残せば強敵とも闘いやすくなるさ」


アリアはそれの気持ちを察したのか言葉を足す。


俺は有り難く招待状を受け取った。


「クルクはトスマンテに行ったことあるのか?」


この集落のエルフはここで生きて、ここを守る。それが教えであり喜びであると教えられていた。


俺が何気なく発した問いへの言葉を濁すように、エールを飲み込む。


「クルクは昔、トスマンテに出稼ぎに行ってたんだ」


アルクが、クルクを助太刀するように言葉を足した。


「もう、70年も前の話だ。若いときは金が必要でね」


クルクは苦笑いをしながら答えた。


年上だろうとは思っていたがクルクは予想以上に年上だった。

聞けば、クルクもアルクも100歳に近いらしい。


「トスマンテには知性の高い人型モンスターも多いと聞く。私もご対面したかったもんだ」


アリアはポツリとつぶやく。


俺とクルク、アルクは3人ともアリアを見つめていた。


アリアはその視線に気付いて、ハハッと笑って俺を見る。


「セツ、強くなりな」



ーー俺は翌日の早朝、集落を出た。

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