第05話 新たなる色彩
レミーと脩太を取り巻いているヘビたちの隙間から、幾条もの白い光が漏れ出す。
その白さは、全く色味を持たない、純然たる輝きだった。
「
辺りに閃光が瞬き、バリバリバリと落雷のような音が轟く。
レミーのメイデンリジェクションと、粘土寺のストーム・ザ・スネイクが、高次元で干渉しあっているのだ。
ヘビを形作っていた粒子たちは、物質からエネルギー状態に戻ると、莫大な量の光と熱と音を放出した。だがそれらが爆散して周囲に被害をもたらす前に、レミーのメイデンリジェクションが封じ込める。
メイデンリジェクション――それは、タイプⅡ/クロームポジションの防御武装。レミーの周囲に張り巡らされた正二十面体のエネルギー結界。相手がサイメタルに由来する存在であれば、物質であれエネルギーであれ高次元干渉し、余剰次元へと葬り去ってしまう最強のバリアである。
「味な真似を……と言いてえが、おおかた対消滅でもさせてんだろ? だったらその防御回数にも限界はあるわけだな」
ストーム・ザ・スネイクを封じられたというのに、粘土寺には全く動揺する気配がない。自分のサイメタル能力が、まるで小手調べだと言わんばかりだ。
「だったらこうだぜ!」
言うや、粘土寺は粗削りなハードロックを演奏し始めた。
音程が、テンポが、何よりもその音楽的な魂がブレまくる不安定な一曲。それをあえて演奏し続ける粘土寺の腕前は確かなものかも知れないが、聴く側にとっては不快極まりない一曲だ。そしてその難曲から生み出されるヘビたちも、一匹一匹の大きさや振る舞いがまちまちで、一〇〇〇匹を相手にするなら一〇〇〇の戦術を準備せねばならないほどの変容ぶりであった。
イレギュラーに躍るヘビたちが、レミーと脩太に降り注ぐ。
「脩太、これ以上は危ない。下がっていて」
「――うん、気を付けて」
「ありがとう」
後ろに下がる脩太を視界の端で見送った後、レミーは腹の底に気合いをためてメイデンリジェクションのパワーを増幅させた。人間の聴覚には捉えられないほどの低周波があたりにばらまかれ、純白の正二十面体は更なる防御力を得る。
次々にぶちあたってくるヘビたち。
大きさもスピードも軌跡も異なる青い線条が、何千本とメイデンリジェクションに突き刺さる……が、しかしその青色たちは、白い三角形の表面で破裂すると、そのまま溶け込んで色を失っていった。メイデンリジェクションの欠片と道連れになって、高次元の世界へと追放されていくのだ。
粘土寺もレミーも既にわかっている。
ヘビがまともにぶつかっても、メイデンリジェクションを突き破ることは出来ないと。
だがしかし、一匹のヘビが、メイデンリジェクションの一欠片を道連れに出来るのなら、無間の戦いの果てに残るのはどちらなのだろうか? それはもはや、粘土寺とレミーの精神力の勝負なのだろう。
膨大な数のヘビが、メイデンリジェクションの一か所に集中して突撃する。それをレミーは、メイデンリジェクションを回転させて位置をずらすことで回避した。
残りHPの削り合いのごとく、勝負は延々と続いた。
先に緊張を解いた方が負けだ――しかし、その決着がいつになるかはわからない。まさに根比べといったところだが、それは粘土寺剣という男の性格とは、全く逆の概念であった。どだい長続きするはずもないのだ。
「めんどくせえ! やめた!」
「――?」
突然、粘土寺が戦闘放棄したので、レミーもメイデンリジェクションの回転を止めて様子をうかがう。
「ああもぅ、めんどくせえ! 俺のストーム・ザ・スネイクで倒せなかった奴は初めてだぜ。そういう意味では、敬意を表してやらんこともないな、バイオニックG7」
「それはあれか? 俗に言う負け惜しみか?」
「いいや、高ぶる気持ちを抑えらんねえだけさ」
不敵に笑う粘土寺の表情に、敗者の陰りは微塵もない。むしろ自分で言うとおり、戦い始めたときよりも爽快な笑顔を見せている。
「サイメタル武装は一人に一つ。能満別彩子のような天才肌でも二つが限界。それが世間の常識だわな……なぜなら、人間のイマジネーションは、モノを三つも四つも精密に思い描けるほど発達しちゃいねえからだ。意外と賢くはねえんだな、人類って奴は――」
思わせぶりな表情を浮かべながら、粘土寺は口角を上げた。
「だがな、思った以上に、狡賢くは出来ている」
そう言うと粘土寺は、学ランのポケットから六枚のギターピックを取り出した。
色も形も全て異なるそれらを、粘土寺は愛おしそうに指先で撫でる。
「こいつらは、俺が今まで倒してきた、ギター武装サイメタルたちの遺品だ」
「ギター武装? そんなジャンルがあるなんて……!」と脩太。
「だろお? つまりこいつら全員、俺とネタ被りしてたわけだ。もう、殺るしかねえよな。実際、殺ったけどな。んで、まあ、戦利品として? 形見として? ギターピックをいただいたわけなんだが、賢い俺様はある日気付いた。このギターピックたちには、俺に負けたことへの怨念がつまってたんだよ。フッフフフ……なあ、おい、怨念だぜ? つまりそりゃイマジネーションってことじゃねえか。こいつらは死んでなお、俺のために役立ってくれるんだとさ」
「どういうことだ?」
「わかんねえか? こういうことだろ! クレイジーセッション!/#2ヘッド・バンギング!」
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