誕生

「赤ちゃん……できた」

「え? やった、やったな!」

「うんっ!」


 ここに1組のカップルがいる。

 名前は、須崎すさき星悟せいご・須崎杏奈あんな

 そしてお腹の中の赤ちゃん。3人での生活が待っているはずだった……



 ◇◇◇



 まだ入院の話にもなっていない頃のことだった。


 杏奈はいつも通り、スーパーに買い物に来ていた。


 駐車場の横断歩道を渡っていると、車が曲がり角を曲がってきた。ここまでは普通のことだった。杏奈は横断歩道を渡り切ろうとしていた。


 だが、その車は速度を落とすことなく、杏奈にぶつかっていった。


「うっ……」


 杏奈は少し跳ね飛ばされた。周りから悲鳴が起こる。



「大丈夫ですか? 誰か! 救急車を!」


 周りの人は、どうにかして助けようとしている。杏奈は見るからに妊婦だからだ。


「赤ちゃんが……うっ……」

「大丈夫ですよ、僕、医者です。ゆっくり深呼吸して、救急車を待ちましょう」

「はい……」


 ◇◇◇


 数十分経って、救急車が到着した。


 そのときには杏奈の腰のあたりから、血が出ていた。


 杏奈は激しい痛みに襲われ、今にも意識を失いそうだった。


 さっきの医者はこの数十分間ずっと杏奈に声をかけて続けていた。


「お名前は?」

「須崎……杏奈です……」

「今、妊娠……」

「29週……」

「まだ29週……」


 救命救急士も厳しいと思うような状況だった。


 杏奈もかなりの怪我をしていて、赤ちゃんも生まれる寸前という状況。普通なら、病院にすぐに運ぶところ。でも、動かせそうにもない。


 そのあと、ドクターカーが到着して、その場で出産した。


 赤ちゃんは息をしていなかった。


 ◇◇◇



「竜雲様。どうか、助けてください……赤ちゃんを……」


 杏奈は、自分が子供のころ助けてくれた竜雲に助けを求めた。


『ほんとに助けるのか』

「お願いします」

『あいつは、お前の夫は、お前の仲間を殺した奴の息子だぞ』

「わかってます……それでも、あの子に罪はないです」

『お前にリスクがあることはわかってるな?』

「もちろん」

『わかった。助けよう』


 竜雲は飛び去って行った。



 ◇◇◇



「なんで……なんでだよ!!」


 星悟は医者に掴みかかった。スーパーにいたあの医者ではない、別の医者だ。


「ほんとに……すみませんでした」


 医者はひたすら頭を下げる。星悟の怒りはそんなので収まるはずなんてない。


「なんで……こんなことに……」


 事故によって、杏奈が死んで、なんで赤ちゃんだけが生き残ったのか、なんでこんなことになったのか。


 そして、これから待っている苦労を考えて、とても苦しくなっていた。


 星悟は何日も何日も泣き叫んだ。これが何を思ってなのかはわからない。





 まだ杏奈が子供のころ、竜雲による異能力を持った人たちは危険とされていた。

 星悟の父は異能力者の研究をしていた。竜雲伝説の一説に、ある能力を持つ人を集め、命をささげさせると、最強の能力をもらえるというものがあった。

 それを集めるために、杏奈たちを襲った。それによって、3人が死んだ。


 そのあと、星悟と杏奈はお互い親戚に引き取られ、何も知らない親戚同士が許嫁として二人を引き付けた。



 星悟は父親のを諦めていなかった。

 本気で杏奈のことを好きだったのかもしれないが、これを実現するために、子供が欲しかった。

 親が持ってるからって子供が異能を持っているかはわからないが、実現に近づくのは確かだった。


 現に生まれた赤ちゃんは能力を持っていた。

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