第93話 三層4

 レッサーウルフが次第に迫ってきている気配が感じられた。


「思ったよりも数が多いかもしれない!」僕がサラに叫ぶ。


 サラも真剣な表情で「一斉に襲って来られると厄介ね! フィーネ! 最初から全力で行くわよ!」サラの気合いの入った呼び掛けに、


「まかせて~」口調は普段と変わらないが、今日はいつもと違いフィーネの周囲に強力な魔力の渦のような流れが見える。


 (魔力だけ考えれば、今いるメンバーではフィーネが一番強いかもしれない)


 頼りになる仲間がいる事に、心強い気持ちになったが、状況はそれほど芳しくなかった。


 草原を追ってきた群れの数だけでも、見えている物だけでも、十匹を越える数がいるようだ。そして、森林からも回り込んでくる複数の気配と息使いが聞こえてくる。


 (前後から挟み撃ちにするつもりらしいな……同時に来られると厄介だ)


「森の中を進んでいる奴らがいる、後ろにも注意して!」僕は後ろの四人に注意を促し、前の敵に向かって突撃した。


「ユーリ! 無茶しないで! とにかく速攻で数を減らしましょう」サラも僕の意図を汲んで同時に突撃してきた。


 僕達二人が突撃してくるのに慌てた様子で、今まで距離を置いて様子を伺っていた内の四匹ほどが、一斉に襲いかかってきた。


「舐めないでよ!」サラが黒魔剣を振り抜くと、初めて見せてくれた時よりも巨大な【風刃】が、二匹のレッサーウルフの首を撥ね飛ばした。そして、返す刀の斬撃でもう一匹倒すと、そのまま残りの群れに飛び込んで行った。


「もう~、無茶はどっちよ~」フィーネがぼやきながらついていく。


 僕は短杖を振るって、一匹の鼻頭に【風刃】を叩きつけたが、一撃で葬る程の威力は無かった。


 怯んだ敵をシルフィーの【風刃】が首を切り裂き止めを刺した。


「シルフィーやはり、キャロの所に行って、回り込んでくる敵が気になる」


 僕が後ろの様子を見ると、四人はこっちに向かって移動を始めたようだ。


「分かったけど、ユーリはいける?」シルフィーは【風刃】の威力不足を心配しているようだ。


 僕は短杖を左手に持ち替え、右手にバゼラードを握った。


「一撃で駄目なら、牽制役に徹するだけさ! 後ろお願い!」僕はそう言うと、サラ達の後を追って、残りの群れとの戦いに飛び込んでいった。


◻ ◼ ◻


 僕がサラ達に追いつくと、既にそこには四匹のレッサーウルフの死骸が転がっていた。


「シルフィーには後ろを任せたよ」僕がそう言うと、サラも頷き、


「それが良いわ、こいつら思った以上に数が多い、迂回した連中も何匹いるか分からないし……油断しないほうが良さそうね」


 サラが敵から目を離さずそう言うと、「これ必要と思ったら使って」渡してきたのは黒魔弓だった。


 僕はとにかく受け取りポーチに仕舞った。僕達がこんなやり取りが出来たのも、あっという間に八匹も倒されたレッサーウルフ達が、警戒して距離を置いたからに他ならない。


「まだ十匹以上残ってるわね……後ろも気になるから一気に行くわよ!」サラが黒魔剣を閃かせ突撃していく、僕もサラに敵が集中しないように牽制役として突っ込んだ。


 黒魔剣の威力は凄まじく、あっという間に二匹を【風刃】で切り裂いた。僕が三匹程を引き付けている間に、フィーネが両手に【風刃】を発生させ、二匹を同時に葬った。


 その時、僕の頭の中にディーネの『敵、数多い』という思念のような声が届いたのだった。

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