第88話 訪問者2

 ミリアさんはお付きらしいエルフの女性に声をかけ、黒いポーチを四つ受け取り、それを四人に渡した。


「ガザフの領営工房からの貰い物で悪いけど試作品らしいわ。今、市場に流通している普及品の更に劣化品らしいのよ、一応マジックポーチよ」


 受け取った三人はとても嬉しそうだ、日頃、勝ち気にも見えるリーゼが涙ぐんでいる、恐らく欲しかったに違いない。


「あの私、ポーチ持ってるので頂けません」一人、ルナだけが遠慮がちにそう言った。

 

「気にしなくていい、隠蔽効果があるとはいえ高価な品は目立つわ。普段は今渡した劣化品を使うようにしなさい」


 ルナがポーチを持っている事も把握しているらしい。


「レッサーボアの革で作ったポーチの内張りに一部魔方陣刻印用にファングボアの革を少し使ってるようね。領営工房は低価格な劣化品作りに随分熱心みたいね……残念だけど容量は普及品の半分以下かしら?」


 僕はそれでも十分だと思った。実際の所、ゼダさんから僕が借り受けたポーチは、ゼダさんは一匹程度と言っていたが、ウサギ二匹程度は余裕で収納できるのだ。


「嬉しいです! 有り難う御座います。ミリア様!」リーゼが熱心にお礼を言っている。


 孤児院では私物を持つのが難しい、色々な事に挑戦するリーゼは持ち物が多いのでルナに頼んでポーチに保管して貰っているらしい。


 (貫頭衣とかもリーゼ主導だし、幼い子供の服とかも作ってたな)


「そうね、劣化品とはいえ、便利な品には違いないわね……そうだ、これも役に立つかもしれないわね」


 ミリアさんがポーチから取り出したのは黒い鉄の持ち手の付いた棒のような物だった。


「弓に使えないような魔木に劣化黒魔鉄を巻いただけの品よ、でも只の棒じゃない、魔力刻印がされているわ。これでも非常に安価な魔法武器よ」


 その棒のような物の有用性は僕にも理解出来た。これ以上、低廉な品は考え付かない位の物だ。魔法発動体として考えれば、ここまで合理的な物はないかもしれない。


「試作品が三本あるわね、ティム、リーゼ、あなた達これを使えるでしょう」そう言って二人に手渡した。


「あと一本は……そうねユーリ貴方への協力のお礼としましょう」


 そう言ってミリアさんは、僕に手渡してきた。


「あの……以前に複合弓をいただいてるので、これ以上は貰う訳には……」


 僕が遠慮して断ると「貴方の戦い方なら、この武器のほうが有用じゃないかしら? 手段は色々持っているに越したことはないわよ」僕の盾とバゼラードを一瞥して判断したらしい。


「有り難う御座います」説得力のあるミリアさんの話に、これ以上断る理由も無かったので僕は素直に受け取ることにした。


 ミリアさんの言うように盾で回避カウンター攻撃を行う僕の戦闘スタイルは、両手を使う弓より、この短杖のような魔法武器が合っているともいえた。


 (遠距離攻撃の優位性が失われる訳ではないから、弓が不要になる事はないだろうけど)


「戦力も充実してきたみたいだし、あの子達やサラも加えて三層で修行してはどうかしら? 三層は安全域とは言っても本気で取り組むなら厄介な階層よ、一人では厳しいかもしれないわね」


 ミリアさんがニッコリと微笑んでそう言ったのだった。

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