第46話 蜂蜜の依頼4
「実は、今回のユーリさんが受けられた依頼は、娘が勝手に探索者ギルドにうちの店の名前で提出してしまったものなの」
僕は、今までの話の流れや、依頼書の筆跡が子供の物だった事から其れほど驚かなかった。
だが蜂蜜が入手出来ないでいるのは事実なので、依頼の取り消しまでする必要はあるのだろうか?
「蜂蜜が入手出来なくてお困りみたいですが? 娘さんが勝手に依頼した事が問題なんですか?」
何か僕の預かり知らない事情があるのかもしれない。
「いえ、娘のミナが私に何の相談も無しに、勝手にギルドに依頼した事は良くない事ですが、問題という程ではありません」
(そういう事なら、追加報酬を払う程は困ってないのかもしれない……ならこちらから取り消しの了承を伝えるのが親切というものかな?)
僕が取り消しの理由を知りたかったのは、猪鹿亭に訪れた時のミレさんの深刻そうな表情が気になったのだ。もし、深い理由が無いのなら別にかまわなかった。
「そうですか、いろいろとお聞きした後で、こう言うのも何ですが、依頼を取り消す事は僕としては問題はありません。元々、自分の都合で蜂狩りは行うつもりでしたから、依頼が無くてもいずれ二層で蜂蜜取りはしていたでしょうから」
僕が言った事は正確ではないが事実だった。蜂狩りの切っ掛けになったのはこの依頼だったが、いずれ狩りの効率を求めるなら蜂狩りを組み入れる事になっただろうと思われたからだ。
「実は娘からギルドに依頼してきたと聞いて、慌ててギルドに取り消しに参ったのです。ですが新人探索者の方が既に受託されたと聞き心配していたのですが、無表情な受付嬢の方が猪鹿亭なら会えるかもしれないと教えて頂いたのです」
(マリアさん……あ! ここの名前、登録の時に書いたよね)
「この依頼によって、受けられた方が無用のトラブルに巻き込まれるんじゃないかと考えたのです」
(何も知らない新人が受けて心配されてたのか……)
「これから蜂の狩り場は少し荒れるかもしれません、大手の商会の争い事に巻き込まれないように、この騒ぎが収まるまで蜂狩りは見合わされるのが良いと思います」
どうやら、見ず知らずの僕の事を心配して、わざわざ知らせに来てくれたみたいだった。
僕はひたすら恐縮するばかりだった。
◻ ◼ ◻
僕は何度もお礼を言ったが、娘が原因を作ったのだから気にしないで欲しいし、申し訳ないと謝罪までされた。
僕は、ミレさんを送り出した後、猪鹿亭の裏庭で精霊樹の周辺の土に癒しを施していた。
そして、さっきミレさんに言われた蜂狩りの事を考えていた。
現状、ウサギ狩りをしていれば、肉と皮そして魔石が得られるので一匹当たりの収入で言えば装備の維持費の面でも十分なのだ。
猪鹿亭に一匹持って帰るのも、宿代金の支払いはウサギなら肉の仕入れが楽になるから助かるとラナさんに言われているからだ。
だが、ルピナスを仲間にした事によって狩りの効率が格段に向上している。
そうなると問題になるのは、ウサギの血抜きに充てる時間である。移動時間を上手く利用しても、かなりの時間ロスになる。
そこで血抜きのいらない蜂蜜狩りなら、上手く回れば魔素吸収が大量に出来るのではないかと考えたのだ。
僕が何故、其れほど効率など考えるようになったのか、それは、ルピナスが仲間になった事で、一緒に成長出来るのなら……僕でも強くなれるかもしれないと思い始めたからだ。
僕にも、じいちゃんの見ていた世界が見れるかもしれない、そう考えると少しでも早く強くなりたい……それは貧弱な肉体故に諦めていた、僕に生まれた淡い希望のような物だったのかも知れない。
僕がそんな想いにとらわれていると……
「感心、感心ちゃんと約束守ってくれてるわね! 私もあの子達ちゃんと送り届けたわよ!」
精霊樹の側に精霊のシルフィーが佇んでいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます