第19話 悩みの壁
ダンジョンから出た僕は、噴水広場の状況を見て驚いていた。広場のそこらじゅうが探索者で一杯だったからだ。
噴水池の周りでは、水を飲んだり、汚れの酷い者は水を頭からかぶってずぶ濡れになっている者もいた。
そして最も酷いのは、獲物の血の臭いだった。
さすがに、獲物を倒した後にダンジョン内で血抜きを行ってないような者は、見当たらなかったが……血抜き済みで汚れた獲物だらけの現状が、この血臭の原因だった。
そして、広場のそこかしこから聞こえる……
「カーッ、かなりヤられたぜ装備の修理代どうすっかな……」
「おい、これから酒場に繰り出そうぜ、いい子がいる場所見つけたからよ……」
「てめえ、またかよ、そればっかだなテメエは!」
「うるせえ! テメエにだけはいわれたかねえ!」
「ガハハハハッたけえッ、それマジかよ」
「おい獲物の分け前、先に貰えねえか、おれ今、金欠でよ……」
「あ~腹へった」
探索者の喧騒が凄まじかった……
(この広場だけでも村の人数より多いもんな……さて僕も少し水で汚れを落とすかな……)
「水の洗浄魔法~、お一人様銅貨四枚~どうですか~」広場の端で年若いローブ姿の女性、昨日僕がラナさんに、かけて貰った洗浄魔法で商売しており、それなりに繁盛していた。
「水の癒しは如何かな……低級ポーションより効果ありで、大銅貨三枚だどうかね?」
こちらの、中年のローブ姿の男性は、確かにポーションを使うよりは割安そうだが……別の場所の女性の同業者に負けていた…….
(魔法でお金稼ぎか……一度覚えればポーションみたいに薬草が要らないからいい商売なのかな……)
そう思って見ていると、結構そこらじゅうに、そういう商売の人はいるようだ。
そして、銅貨四枚で洗浄魔法をやってた子が、「価格下げると一時は良くても、結局、周りも自分も苦しくなる」と注意を周りから受けて、謝罪し、値段を五枚にしていたのが興味深かった。
(どうやら五枚が相場らしい、こんな雑然としてても暗黙の了解っていうのかな……そういうのあるんだな。注意された子はまだ幼そうだし、新人なのかもな……)
僕は噴水の周りが少し空いてきたのを見計らって洗い場に割り込み、自分も軽く水で汚れを洗い流しながら、周りのそんなやり取りに耳を傾けていた。
村での静かな世界しか知らない僕は、この雑然としながらも活気ある雰囲気をそれなりに楽しんでいた。
それでも、いつまでもぼんやり、ここに居るわけにもいかなかった。
ダンジョンからは、まだまだ探索者の集団が戻ってくるようなので、邪魔にならないうちに、退散することにした。
◻ ◼ ◻
噴水広場の喧騒から離れ、歩きだした僕は、さっきのダンジョンでの探索者達の会話について考えていた。
最初は、他の探索者にウサギ狩りをしている事を馬鹿にされたり、嘲笑をうけるかもしれないと覚悟していた。
だが、実際のところ探索者達はソロでウサギを狩る事の危険性をよく知っているみたいで、ソロでウサギ狩りをしている無知なのか無謀なのか解らない僕を、嘲笑するというよりは呆れている雰囲気だった。
それよりも、今、僕を悩ませている事は僕の装備を見てからの彼らの会話だった。
彼らの会話から僕にわかる事は、今の新人探索者希望の者は、まず他の仕事で装備を整え、[探索者パーティー]という物に参加できる条件を満たさなければならないようだ。
もし仮に彼等が僕の事を馬鹿にするとすれば、下積の苦労を厭い無謀な賭けをする愚かな奴、準備も出来ない怠け者という事だろうか……
僕がそんな考えを無視して前向きに考えられないのは、今日の思わぬ苦戦が原因だった。
その事実が彼等の考えが正しく、僕のやってる事は間違いなのではないか……じいちゃんは僕の実力を見誤ったのかもしれない……という、初めてじいちゃんを疑うような考えに、気分が落ち込んでいくのだった。
(じいちゃんが探索者をやってたのは十年以上前だし……状況も変わっているかもしれない……でもウサギの事はじいちゃんも詳しいはず……)
考えれば、考えるほど深みに嵌まっていく僕だった。
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