第四十一話 陽の当たる水辺
名は体を表す、と言う。
名前がそのものの本質を代弁しているから、名前に恥じないだけの行いをしろ、という意味の訓戒だ。
本質を隠し、水面下で守り、上辺を殴る為の障壁を低くする。
読替えたものは罪悪感の呵責なしに相手を殴ることが許される。何故ならそれは本質から離れた上辺であり、本質的には何も殴っていないからだ。そう信じているから、西白国のものの多くは読替を日常的に行う。音声で認識されるときには文字という情報が伴わない、ということを失念して西白国では読替という行為を百六十年もの長きにわたって続けてきた。
これはその報いだ、と
「
「ああ」
文輝の副官である
それでも。
そうだとしても。
軋轢を抱えながらでも人は前に進むしかない。
全ての差別と偏見が絶えることはないだろう。それでも、明日は来るし人は人を差別する。そのことについて、全てが糺されなければならないと主張をするより、自らがこの世を去る方が合理的な解だと知って、それでも子公は文輝の副官を選んでくれるだろうか。
多分。
子公は流麗な眉を寄せて、顰めっ面で溜息を吐いて明日の為の献策をしてくれるだろう。
それが、文輝と共に数多の任務を駆け抜けてきた副官への信頼だ。
俯いて項垂れるのは全てが終わった後でも間に合う。
だから。文輝は白瑛に話の続きを促した。意を得た白瑛はゆっくりと話し出す。
文輝の右側に伏した
「沢――は澤の新字体であり、さわ、或いは湿地を意味します。陽――すなわち『洋』の読替ですね。洋は、うみ、或いは大きな水場。そう、あなた方の言葉で言う『湖水』の『太陽が昇る側』程度の意味合いで読替が行われました。口――すなわち『港』の読替であり、みなと。つまるところ沢陽口、というのは『湖水の東側に存在する湿地帯に設けられた停泊地』であることを示しています」
あなた方にとっては相当に手を焼いた湿地なのでしょう。治水工事でも行わなければ到底、利用価値のない土地でした。
その説明に文輝の中で何かが整っていくのを感じる。
湖水を渡るものをどうして
「この国が大陸を統治する遥か以前の出来ごとです。あなたたちがそのことをご存じないのも道理でしょう。当時はわたくしも含めて、まだ三人ほどしか
それは言外に怪異の跋扈を意味する。
西方大陸にのみ発生する怪異、というのはその実、土着神であるという説がある。人の世に中央集権が浸透する以前より、神の世にも中央集権があった。白帝は中央――
「怪異が土着の神――だと?」
「そうでございますよ、
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