第24話 あれ、おかしいな、泣きたくなんてないのに……
「えっと、これ、ちょっと反応に困んだけど――と、とりあえず元の場所に戻しておくから!」
僅かな沈黙を挟んだ後、稲森さんはあたふたしながらパンティーを引き出しの中に戻して勢いよく閉めた。
「ち、違うんだ稲森さん、それは僕のじゃなくて……」
「だ、だよな……お前のじゃなくてお姉さんの、だよな」
「いやそうじゃなくて僕が盗ったじゃないって意味で――」
「――わかった! わかったからそう声荒げんなって」
制止するよう片手を前に突き出す稲森さんだったが、その目は明後日の方に向けられている。
「……本当に? 稲森さんは本当に僕を信じてくれる?」
「……う、うん。シンジルシンジル」
稲森さんは僕を視界に入れないようにしている。それだけじゃない……態度がもう、腫れ物に触るような振る舞いだ。
最悪だ。これじゃまるで僕が下着泥棒みたいじゃないか! いや実際稲森さんはそう認識しちゃってるだろうし……最悪だ。
僕が犯人じゃないことは誰よりも僕が知ってる。更に言えば真犯人にも予想がついている……真希ネエだ。
……僕は真希ネエを無意識のうちに信頼していた。なにかを仕掛けてくるにしてもそれは3人が集った場で正々堂々真っ向から、と。
信頼、という名の
今思えば真希ネエが僕のパンツ被ってバスタオル一枚でいたのも作戦の一つだったのかもしれない。動揺を与えるためと、〝こっちは嫌がらせする気満々だからね〟っていう意を視覚で伝えさせ警戒心を強めさせるため。
後者がもたらす効果は思考誘導。準備はとうに終わっているという事実から遠ざけるのが目的。嚙み砕いて言えば〝これからなにか仕掛けてくるかもしれない〟と思い込ませるのが真希ネエにとっての勝利条件だったということだ。
深読みしすぎかもしれない。でも、
なにより質が悪いのはどう足搔いたって不利的状況から脱せない点だ。たとえばここで僕が『そのパンティーは僕が盗ったんじゃない! 真希ネエが自ら引き出しに入れたんだ!』と、声高に訴えたとして、果たして稲森さんは信じてくれるだろうか……答えは否。なに言ってんだコイツって顔されるのが容易に想像できる。
詰まるところ最悪だ。
「「……………………」」
どちらも口を開かず静かな時間が続く。稲森さんは時折こっちに視線を向け、なにかを言いかけようとしては止め、言いかけようとしては止めを繰り返している。
僕が逆の立場だったとしてもああなってた…………本当に同情する。
「…………じゃ、じゃああたしはそろそろお
少しして稲森さんがそう切り出した。どうやら帰るタイミングを見計らっていたらしい。
「お、お邪魔しました」
稲森さんは足早で僕の横を通っていく。
「――稲森さん!」
「ひゃいッ⁉ ……な、なんだよ」
僕は振り返らずに彼女を呼び止めた。
「……僕は……盗ってないから……」
「…………おう」
短い返事のすぐ後にバタンとドアの閉まる音がした。
クラスメイトの、しかも隣の席の女の子に……姉のパンツを盗んだ男と認識されてしまった。
「あれ……おかしいな……ぼやけて前がよく見えないや」
思春期真っ盛りの男子高校生にその事実はキツすぎた。
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