第211話 空対空防御

「アズライール1及びバンシー5、グロキリアと交戦開始しました! 直掩戦闘機隊も敵無人機部隊と接敵!」


「ヤタシステム、ツクヨミのヤサカシステムと同調開始。艦隊の対空兵装一次優先権をツクヨミに設定!」


「スサノオ、副砲起動。艦隊、アマテラスを中心に重防御陣形へ!」


 既に存在を秘匿する意味も無くなったため、ECMを展開していたツクヨミがジャミングを解いて艦隊最後尾へと移動、旗艦であるアマテラスの背中を預かる。スサノオは機体に四基搭載されている76.2mm連装レールガン「ハバキリ」を起動させ、超遠距離砲撃を開始する。とはいえ、相手は多角的に進行方向を変える無人機…直掩戦闘機隊と乱戦に陥っている中でどうやってこちらの攻撃タイミングを知覚しているのか疑いたくなる精度で回避し、三斉射して命中ゼロ。


「アズライール2が後退、艦隊防御を支援するとのこと!」


 クラスターミサイルであるクロカヅチによる支援攻撃があったとはいえ、アズライール1とバンシー5は無人機四機を短時間で蹴散らして見せた。第二次天地戦争で見せたフィリル中佐とシルヴィ中尉による高精度の連携は七年のブランクがあっても健在らしい。機動性はイザナギの方が上のはずだが、光学望遠で観測された二機の戦闘機動を見る限り性能差は感じない…おそらくシルヴィ中尉がゼルエルのリミッターを部分的にカットしているのだろう。


「スサノオには主砲の発射準備を進めさせろ。敵機の接近は時間の問題だ。ツクヨミ、よろしく頼むぞ」


「こちらツクヨミ、了解。無人機だろうがミサイルだろうが、叩き落としてあげる。私たち運命の三女神の加護ってヤツをお見せするわ」


「他人様の高価い玩具をぶち壊すってゾクゾクするねぇ、腕が鳴るよ! スサノオ、一番の獲物はそっちに譲るんだからしっかりキメてよ?」


 アマテラスの火器管制はミコト中尉が担当しているし、ツクヨミにはレイシャス大佐とミレット少佐が乗り…確かに元運命の三女神隊の三人が艦隊の防御を担うポジションに就いている。


「任せなさいって。愛弟子にだけ美味しいとこ持ってかせはしないわ!」


 艦隊の打撃担当であるスサノオにはメファリア准将、そして艦隊の核たるアマテラスの艦長には私が任命され、最強の艦載機であろうイザナギとイザナミはブリュンヒルデのペアへと与えられている。現状マホロバにおいて重要でない艦などいないにしても、事攻撃に関する分野において重要なポジションにはフォーリアンロザリオの人間を起用しているのはファリエル提督の意向によるものだ。


『私が進む道を誤った時、いつでも私を討てる力をあなた方に与えます。これはルシフェランザの人間には任せられません、セレスティア家の人間に対して特別な感情を持たない…そんなあなた方だからこそ託せるのです。その時は…よろしくお願いしますね』


 そう言った彼女の微笑みは女神か天使かと思うほどに神々しく、確固たる決意に満ちていた。このマホロバが、彼女の描く未来とやらが…本当に世界が選ぶべき道なのかは我々が判断すべきことでは無い。しかし彼女自身の死さえも厭わぬ覚悟の一端を垣間見た時、イーグレット大尉に促されタカマガハラへ来たことは正解だったと感じた。軍人が国のために命懸けで任務にあたるのと同様、彼女もまた世直しに命を懸けようと言うのだ。

 生まれた時から政治の世界に身を置くことを定められた、兵役さえ無縁であっただろう彼女が自らの危険を顧みず事を成そうとしている…その姿に、心打たれた。私より随分と若いというのに…この芯の強さこそ、ルシフェランザ連邦を統べるセレスティア家の当主として求められる素質なのだろう。


「…? 艦長、何か?」


 無意識のうちに視線を向けてしまっていたらしい。不思議そうな顔で見つめ返すファリエル提督に「いいや」と短く答え、顔を正面へ向ける。


「戦闘が始まっても、ブリッジに留まるのですね。危険では?」


「お気遣い感謝します。ですがここは空に浮かぶアマテラスの中、どこにいてもさして危険性は変わりませんよ」


 確かに、言われてみればそれもそうだ。ブリッジにいるから危険というわけでも無いし、非戦闘員居住区画が安全かと言われればそうでも無い。我ながら愚問だったな。


「それに私には、見届ける義務がありますので」


「そうでしたな、これは失礼した」


「敵六機が直掩隊を突破! 急速接近中!」


 オペレーターからの叫びに意識が正面の大型戦況ディスプレイに向く。直掩戦闘機隊にも実力者が集められたはずだが、二個小隊で二機を抑えるのがやっと、か。


「ミコト中尉、対空戦闘はツクヨミに優先権があるとはいえ状況如何によっては…」


「承知しておりますわ、艦長。お姉さま方におんぶにだっこでいるつもりは御座いません」


 ならばよし。モニターには人体の限界を超えた機動で飛ぶ無人機が直掩隊を振り切り、接近してくる様子が映し出されていた。スサノオからレールガンによる砲撃も続いているが、やはり目標を捕らえるには至らない。砲弾に近接信管でも仕込めれば…とも思ったが、マッハ7で飛んで行く砲弾だ。それに近接信管を仕込んでも期待出来るような効果を生むのは難しいかも知れないな。だがスサノオの砲撃によって無人機たちも細かな機動修正を強いられ、例のロケットスラスターの燃料を消耗させることには成功している。燃料が尽きれば、もはやただ速いだけの戦闘機だ。やりようは出てくる。

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