第19話 ソフィーのお買い物(前編)
冬夜たちが第一の試練を終えた頃、研究所から近い街の駐車場。そこにはエミリアとスケジュールの確認をしているメイたちの姿があった。
「学園長のお買い物ミッションは実行するのは明日。今日はリーゼの案内で何のお店があるか見て回ってきてね」
「あれ? ママ、最初の予定だと二人で買い物してもらってから案内するんじゃなかった?」
「いきなり知らないところに行って『お土産を買ってきてね』なんて無理でしょう? 何もわからないメイちゃんやソフィーちゃんはどうなるかしら?」
「間違いなく迷子になるわね……」
「でしょう? 今日は三人でどんなお店があって、何が売っているのかリサーチしてきなさい。前にあなたが行った時とは変わっているわよ、最近リニューアルしたから」
リーゼが以前遊びにきたときよりも新しい建物が増えていた。
「ソフィー、いろんなお店があるね」
「うん! メイ、あそこのお店の前にかわいい子がたくさん座っているよ」
二人が話していた店には「新規オープン」ののぼりがたくさん立っている。看板には「ぬいぐるみ専門店」と書かれており、店先に置かれたベンチにはソフィーより二回りほど小さなクマやイルカなどのぬいぐるみがたくさん置かれていた。
「あんなお店いつの間にオープンしたのかしら! 早速お迎えに行か……」
「リーゼ、買いすぎないようにね。部屋にある
「う……善処します」
今にも走り出しそうなリーゼに釘を刺すエミリア。リーゼの部屋は天井までぬいぐるみで溢れており、足の踏み場もない状態になりつつある。しゅんとするリーゼにソフィーは不思議そうな顔をしながら話しかける。
「リーゼさん、大丈夫ですか? あのお店に行きたいです」
「うん、ソフィーちゃんが言うなら仕方ないわよね。メイちゃんもいいかしら?」
「はい! みんなで一緒に行きましょう」
リーゼの切り替わりの速さに小さくため息をつくエミリア。腕につけた時計を見て、少し慌てた様子で話しかける。
「大事な会議のことをすっかり忘れていたわ。三人でゆっくり散策してきてね。夕方ここに迎えに来るから」
「「「はい、わかりました(わかったわ)」」」
三人の返事を聞くと急いで車に乗り研究所へ帰っていくエミリア。メイとソフィーは見えなくなるまで手を振っていた。
「じゃあ、街の中を歩いて見ていこうね」
「「はい、よろしくお願いします」」
ソフィーの左手をリーゼ、右手をメイが繋いで仲良く歩きだす。ニコニコと歩く二人にだらしなく緩んだ顔のリーゼ。すれ違う人がサッと横に避けるほど異様な光景だった。
「メイ、こっちのお店に可愛い洋服がたくさんあるよ」
「ほんとだ。いろんなお店があって楽しいね」
「しーちゃんたちのお土産は何がいいかな?」
本当に楽しそうに散策する二人とすれ違う人々、二人を見た店員がみな笑顔になっていく。その様子を見たリーゼの心も暖かくなる。
「ここのお店を覗いていかない? お土産にピッタリだと思うわよ」
「リーゼさん、なんのお店ですか?」
不思議そうな顔をしたメイが問いかける。外観は周辺の綺麗な店舗と違い、少し古めかしい。看板には営業時間と「OPEN」の文字が書いてあるだけで何を売っているお店なのかさっぱりわからない。
「アクセサリーの専門店よ。オーダーメイドで作ってくれるし、お守りの効果もあるの。みんなでお揃いの物はどう? 世界に一つだけのものができるわよ」
「すごいです! でも、結構高いんじゃないですか?」
心配するソフィーに優しくほほ笑みながら頭をなでるリーゼ。
「大丈夫よ、私たちのような学生でも買える商品が多いから。きっとみんな喜ぶわよ」
「ほんとですか? ありがとうございます」
ソフィーの顔に笑顔が戻り、ぎゅっとリーゼに抱き着いた。
(ソフィーちゃんに抱きしめられている!? あーもう幸せすぎよ)
二人の様子をニコニコと見守るメイ。
「二人が仲良しでほんとによかった」
メイの位置からはリーゼの表情は見えていないが、完全に緩み切っていて言乃花がその場にいたら雷が落ちまくっていたのは間違いなかっただろう。三人を中心に大きな人の円ができていたのだから……
数十分後、正気に戻ったリーゼと共にお店に入った。三人でたくさん悩んだ末、お揃いのアクセサリーを決めて明日取りに来ることになった。
お店を出るとソフィーのお腹が大きく鳴ったのでリーゼお勧めのお店にランチに向かった。
幻想世界にいるはずのない人物と遭遇するとは、予想もしていない三人だった。
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