第41話 説得というものは
妹たちの名前が決まった。
ヴェズリア様の姫が先に産まれたので第一王女アラヴェリエ様。
黒髪に見えるが陽に透けると濃い茶色だと分かる。
肌の白さ、顔立ちがヴェズリア様に似ていて、将来美人になるだろうなと思う。
瞳の色が宝石みたいな緑で、これはイロエスト王族には稀に出る色だということだった。
ヴェズリア様は「大丈夫だとは思うけど」と、イロエストから何か言って来るかもしれないと気にしている。
カリマ母さんの産んだ第二王女はセマリュと名付けられた。
黒髪で肌色の濃さも母さんに似ている。
一つだけ違うのは瞳の色が鮮やかな赤だということ。
「コリルにそっくりだな」
と、エオジさんは言う。
確かに俺は母さん似だと言われるけど、黒い瞳の母さんより赤い瞳の俺に似てるってのは、妹にはかわいそうな気がする。
女の子だしな。
ブガタリア王族の血統である赤い瞳、俺も父王も暗めの赤だ。
ヴェルバート兄の瞳は俺たちより少し明るい赤だけど色は薄い。
それに比べて妹の瞳はとてもハッキリとした赤だった。
これだけ鮮やかな赤はブガタリアの歴代王族でも珍しい、と祝福に訪れた長老が驚いていた。
母さんや産まれたての妹たちの世話は、俺には何も出来ることがない。
ヴェルバート兄と俺は、一ヶ月後の祝いのお披露目のための手伝いを頼まれたわけだけど、特に何もすることがなかった。
びっくりするくらい役立たず。
まだギディのほうが忙しくて、俺まで構おうとするので困っている。
だから、やってやる。
思ったよりヴェズリア様は産後の体調も良く、すぐに政務に復帰していた。
それでもまだ完全復帰ではなく、仕事量も徐々にという感じだ。
やるなら今!、である。
「ヴェズリア様、母を説得してもらえませんか」
母さんが離れに戻っているタイミングを見計らい、執務室にお邪魔した。
俺は母さんと妹だけでも離れから王宮内に移したほうが良いと主張する。
俺だって三歳までは王宮内に居たんだから出来ないはずはない。
「コリルの気持ちは分かるわ」
陣痛で苦しそうな母さんが離れじゃなく王宮内に居たなら、すぐに対処してもらえたはずだ。
これからも妹に何かあったらと思うと不安だった。
王宮内の使用人たちも、その件に関してはかなり後ろめたいらしく、俺の意見に賛同してくれる者が多い。
「私ならもう十歳ですし、ギディもいますから」
母さんと父王は俺を一人にすることに反対するだろう。
だから、ヴェズリア様に母さんや父王を説得して欲しいとお願いした。
「そうねえ」
少し考え込んだ後、ヴェズリア様は条件付きで頷いてくれた。
数日後、引っ越しが行われる。
ギディはもちろん残り、ギディ姉はカリマ母さん付き侍女として雇用され、王宮内に移動した。
で。
「なんでこうなった」
うれしそうに荷物を運び込むエオジさん。
「お前を一人にさせるのは不安だとカリマが言うのでね」
いやいや、一人じゃないし、ギディもいるし。
しかもエオジさんは保護者としては微妙じゃないか?。
俺としては女性の使用人が通いで来てくれればそれで良かったんだけど。
まあ、家に子供だけじゃ心配だろうし、仕方ない。
俺は大きなため息と共に肩を落とした。
離れは元々、病人や危険な者たちを隔離するための建物だったらしい。
それを側妃用にするのもおかしな話だけど、知らずに喜んで住んでる俺たちも実は変な目で見られてた。
まあ、あの嫌味従者の嫌がらせだったんだろうけど、俺も母さんもあんまりそういうのは気にしないからな。
建物自体は丈夫な上に簡単な結界魔法がかけられていた。
そりゃ、隔離したい相手が、こんなに王宮の近くにいたらそうなるよ。
とにかく、離れは男ばかりの家になってしまったのである。
「コリル、ちょっと」
羨まし気なヴェルバート兄に妹の部屋で捕まる。
「どうしてコリルはこっちに来ないの?」
はあ、やっぱりね。
でも、俺は平民志望だからあんまりこっちに慣れるのは良くないと思うわけ。
ていうか、前世の記憶持ちのせいか、こんな豪華な建物に住むって考えるだけで勝手に疲れるんですよ。
「あ、あのですね、兄様。 私も妹たちに会うのを我慢しているのです。
ですから、兄様も私と住むのは我慢してくださいね」
お互いに我慢、と言えば頷いてくれた。
ふう、これ以上、同居者が増えなくて良かったよ。
そして、妹たちの誕生祝いのパーティーも無事に開催された。
内輪で、と聞いていたが、そこはやはりイロエストが口を出して来たようだ。
「イロエスト王族の血を引かれる姫様ですから」
と、大量の贈り物が届いた。
まあ、前回のように教育係だの侍女だのと人材を送り込んで来なかっただけマシかな。
イロエスト国からの使者の代表は王弟殿下だった。
しばらくの間、ブガタリアに滞在するというので、ヴェルバート兄と二人で剣術の稽古をつけてもらうことになった。
うへぇ。
もう手加減なんてしてもらえないよなあ。
痣だらけになる自分の姿が見えるようだ。
そしてシーラコーク国からピア嬢が護衛や侍女を連れてやって来た。
「お久しぶりです、殿下。 王女様のお誕生、おめでとうございます」
「お元気そうでなによりです。 遠いところをようこそ、ピアーリナ様」
ピア嬢とはあれから月に一回程度の手紙のやり取りをしている。
図書館宛に送っているので、ギディたちには本の購入の相談だと思われていた。
しかし、ギディがピア嬢の名前を聞いて察してしまったようだ。
「シーラコークの国立図書館のピアーリナ様、ですか?」
ギディが横目で俺をじーっと見ている。
その目は止めて。
「父からはシーラコークで可愛いお嬢さんとお知り合いになったようだとは聞いていましたが」
ヴェルバート兄まで俺の顔を見に来た。
誰かチクったな。
「シーラコーク国の外相のお嬢さんですよ」
俺はヤケクソ気味でピア嬢を紹介する。
「ピアーリナと申します、ヴェルバート王太子殿下」
ピア嬢は十一歳には見えない、きれいな礼をとる。
「なるほど」
え、ヴェルバート兄、何が?。
何故か、ピア嬢と俺を囲んだ輪が出来ていた。
俺はこれ以上、
もう喋らないと口を閉ざすと兄様が勝手に約束をする。
「しばらく滞在なさるのでしょう?。
コリルバートに我が国をご案内させますよ」
俺が口をパクパクさせて抗議をしていると、
「ありがとうございます。
コリルバート殿下にはまた魔獣に乗せて頂くお約束をしておりますの」
と、ピア嬢が笑顔で爆弾発言をする。
ぐっ、確かに手紙には書いてあったけど、俺は約束なんかした覚えはない。
エオジさんがニヤニヤしてるのが目に入ってきて、何故か悔しい。
父王や妃たちまで微笑ましく見てるのがヤダ。
俺たちはそんな仲じゃないし。
「ピア、庭を案内するよ」
俺は逃げることにした。
俺が案内出来る所なんて厩舎ぐらいだけど、きれいな正装姿のピア嬢を連れて行ける場所じゃない。
なので、王宮の庭師ががんばって整備している遊歩道を歩く。
「シーラコーク国の皆さんはお元気ですか?」
あれからまだ一年も経っていないのに、ずいぶん昔みたいに思える。
「はい。 父も兄も、大使館の皆様もお元気で、私がブガタリアに行くと聞いて大変驚いていらっしゃってました」
それは当たり前だ。
シーラコークはブガタリアと違って、子供の社交デビューは十五歳である。
普通なら、ピア嬢はまだパーティーには出られないし、ましてや他国に行くことなど出来ない。
「うふふ、我が家では私くらいしか魔獣に騎乗出来なかったのです」
ブガタリアは他国からの重要人物にはゴゴゴを御者付きで貸し出している。
「それにコリルバート殿下も、あの時は社交に出られる年齢ではなかったでしょう?」
あー、俺自身がいらん前例を作ってしまったのか。
俺は頭を掻いた。
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