ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜
さつき けい
第1話 転生というものは
「おい、やめろ!、わ、わあああ……」
その日、俺は死んだのだろう。
中学二年生の夏休み直前。
俺は下校中、近所の川の橋の上で数名の男子生徒に囲まれ、その内の一人に突き飛ばされた。
最近、よく彼らに絡まれ、ただ「顔がキモい」ってだけで殴られた。
何度も「やめろ」と抵抗したし、周りに下校中の生徒が何人もいたのに。
その日、俺は突き飛ばされた勢いで橋から落ちた。
おそらく、助からなかったんだろう。
で、ここはどこだ?。
気づいたら周りは真っ白。
どうやら「あの世」らしい、てか、そうだよね?。
『お前がそう思うのなら、そうであろう』
俺の目の前には金色に光る珠が宙に浮いている。
そこから声が聞こえるようだ。
っていうか、そう思うってだけで、本当にそうなのかは分からないけど。
俺は首を傾げたつもりだったが、違和感がある。
あれ?。
自分の身体を見ると、どうやら俺自身がただの白い煙みたいになっている。
ゆらゆら揺れて、今にも吹き飛びそうだ。
『お前は死んだようじゃ』
へ?、『ようじゃ』ってそこは確定なんじゃないの?。
『申し訳ないが、ワシはお前が死んだところを見ておらんのでな』
あー、俺って声が出てない。
でも目の前の珠は俺の考えを読むのか、ちゃんと答えてくれている。
この珠は『輪廻を司る神』と名乗った。
『では、順を追って話そうかの』
珠の声は高いのか低いのか、男なのか女なのかも分からないけど、言葉は年寄り臭い。
『ほっとけ』
……ごめんなさい。
はっきり言って、信じたくない。
やっぱり俺は死んでいた。
だけど、落ちた川が浅かったせいで大怪我で病院に運ばれ、長い間生死の境を
『あまりに長い時間、その状態だったために魂の回収係がしくじってしまってな』
はあ。
この世界の
俺はその輪廻の輪ってやつに乗り損なったってこと?。
『まあ、そういうことじゃな』
いつ、
誰にも看取られず、俺の魂は身体を離れてしまった。
その時、案内されなかったせいで輪廻の輪の列から外れて漂っていたみたい。
回収係の怠慢で。
ここが重要で、俺の魂は何とか見つかり拾ってもらえた。
じゃあ、俺はこれからどうなるんです?。
『それなんじゃが』
言い辛いのか、しばらく無言が続いた。
『輪廻の輪に乗らない者は、本来なら神になるのだ』
へっ!?。
この世界では、魂というモノは輪廻転生を繰り返す。
現世で何度も産まれ、生者としての様々な修行を乗り越えて、最終的に真理に到達した魂だけが輪廻を終えたとして輪から外れ、神に成れるのだという。
いや、俺、そんな、神なんて器じゃないし。
『当たり前じゃ』
あ、酷い。
俺がムッとしたのが分かったのか、珠が話を変えた。
『神にも成らず、単に輪廻の輪に乗り損なった魂は、すぐにゴミと判断されて
しかしな、今回の件は本当に稀な事でな』
真っ白だった俺の周囲のすぐ側に、モニター画面みたいな四角いものが現れた。
『見えるか?』
住んでた街の風景だ、なんだか懐かしい。
ぐるりと回った映像が一ヶ所で止まってズームする。
あっ。
俺が落ちた橋。
欄干の根元に、たくさんの花やお菓子、飲み物のペットボトルが並んでいる。
俺は知らず知らずのうちに嗚咽を零す。
『ワシも神の端くれじゃ。 多くの供養の声には応えたくなる』
供養とは、死者に対して、あの世で幸せになって欲しいと願う近しい者たちからの祈りだ。
花束の中に見慣れた字で書かれたカードが見える。
ーーー天国の息子へーーー
う、うっ、うう……。
それからしばらくの間、俺の魂はただ泣き続け、珠は黙ってぼんやりと光っていた。
どれくらい経ったのか、俺がようやく落ち着いた頃、また珠から声が聞こえ始める。
『お前はこの世界ではもう現世での修行は出来ないが、他の世界の輪廻の輪でなら可能だ。
どうするね』
元の世界には戻れないが、塵になるはずだった俺の魂を救うにはそれしかない、と言われた。
他って、違う世界でやり直すってこと?。
それって異世界転生っていうことだよね。
『そういうことになるのお』
さっきまでの悲壮な感じが吹っ飛んだ。
チートスキル特典とかってあるのかな?、なんだかドキドキしてきた。
顔が見える訳でもないのに、何故か珠が苦笑したように見えた。
『では、その方向で良いか。 何か他に希望はあるかな?』
やった!、神様、ありがとうございます。
『いやいや、そんなに期待されても大したことは出来ないぞ』
えー、そうなんだ。
うーん、と考える。
どういう世界なのかによるよね。
『今すぐに転生出来るのは魔法と剣があり、魔獣のいる世界じゃ』
おー、すごい。ラノベっぽい。
でも、すぐ死んじゃいそう。
『そうならぬように欲しいものがあるならと希望を聞いておる』
そうですよねえ。
えっと、希望っていくつまで言っていいのかな。
『とりあえず、いくつか言ってみよ』
じゃあ、過酷な世界だろうから、ある程度丈夫な身体が欲しい。
『その世界の住民は元々頑丈な身体をしておる』
それと、言葉とか文字は分からないと困る。
『いや、それは現地で赤子から始めるのじゃから、努力次第で普通に理解出来よう』
ああ、勉強はさぼっちゃダメってことか。
うん、分かった。
俺は別に目立つような頭の良さとか、めちゃくちゃな強さは要らない。
ただ……。
あの、出来れば、他人に嫌われない容姿にしてもらえませんか。
俺は自分のことをあまり好きじゃなかった。
一人息子で甘やかされて育ったせいか、小太りで運動が苦手。
食事も好き嫌いが激しくて偏食気味で、だらしない生活で肌も荒れてたし髪もボサボサだった。
やれば出来るとか言われても、やる気がなかった。
もう一度やり直せるなら、せめて「キモい」と言われないようにお願いしたい。
『構わん。絶世の美男子にでもしようか?』
いやいや、冗談だとは思うけど、俺は本当に嫌われない程度でいい。
イケメンも過ぎれば嫌味になっちゃって反感を買うって知ってるよ。
だって、俺はずっとそう思ってたから。
そんな俺でも大切に育ててくれた両親を思い出す。
ごめん。
先に死んじゃって、親不孝ばっかりして、ごめんなさい。
『人生は修行じゃ。
お前はこれから今までと違う世界で生きていかねばならん』
……うん、分かった。
『まあ、すぐには上手くいかんだろうが、新しい世界で輪廻の輪に加われることを祈っておる』
あはは、神様に祈られるなんて、すごいな、俺。
『今回のみの特典として』
もう転生が始まったのか、意識が薄らいでいく。
『お前の前世での記憶をそのまま残しておく。
次からはないぞ。
決して後悔せぬ生き方を……』
ありがとう、輪廻の神様。
やれるだけやってみるよ。
でも、さっさと死んじゃったらごめんね?。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目覚めると俺は子供になっていた。
二歳くらいかな。
まあ今までの記憶が無いのは、おそらく本能だけで生きてたからだろうね。
やっと少しづつ頭が回り始めた感じ。
母親は、どう表現すればいいのか、うん、あれだ。
小柄で美人というより素朴系。
父親はいやに目鼻立ちがハッキリスッキリした美丈夫で筋肉がすごい。
一目見て「脳筋」の文字が浮かぶ。
これなら俺の容姿は、少なくとも「キモい」とは言われないだろうと安心した。
部屋は大きくはないけど小奇麗で上品な造りだし、贅沢ではないけど高そうな調度品。
これ、もしかしたら結構イイトコのお坊ちゃんに生まれたかも?。
四方を険しい山々に囲まれた小国ブガタリア。
なんと!。
俺は、その国の側妃の第一子で、国王の第二王子として産まれたのである。
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