VS暴水鬼その2 フランネル大炎上、男たちの企み
フランネル・テイラーハンズ。
彼女は一応
生まれたときより功徳を与えられ、幼少の頃より灯士として活躍することを周囲から熱望されていたが本人はあくまで父の商いを手伝うことを目標に生きてきた。
戦うことよりも、服に触れていることの方が好きだったから。
ただの一枚の布が熟練の職人の手に掛かれば、たちまちの内に見る者も着る者も魅了する芸術品となる。
特に服と着用者が一体となったときのあの
それは彼女にとって最も心揺さぶられる出来事だった。
だからこそフランネルは自身を商人であると名乗り、これまで積極的に灯士として活動することはなかった。
だから誰も、そして彼女自身もそれを知らない。
彼女が本気でその身に宿る力を存分に振るった時の――その紅蓮の炎の激しさを。
それはまさに、燃え盛る極炎と称するに値するものだということを。
鴎垓はこの作戦を実行することを若干……いや結構……いやかなり後悔していた。本音を言えばこんな光景を見るとは思っていなかったのであれだが、頼んだのは自分なので今更の話である。
高波が効かぬと見てか鴎垓と戦ったときに使用した水弾を次々放ちフィーゴの防壁を突破しようと試みる暴水鬼。
「普段は周りに被害が及ぶかもしれないので大分力を抑えていましたが」
その様子を見つめながら二人より離れた位置に立つフランネル。
周囲には彼女を中心に熱波が吹き荒れ、髪を煽りたなびかせる。
「今の
それはあくまで余波。
大いなる力の一部に過ぎない。
本番は――これから。
「これなるは炎神”ファイズ”より賜りし功徳。
お出でなさい私の忠実なる
主人の言葉に応え、その存在が姿を現す――!!!
《 ―― 》
それは核から供給された力によって輪郭を増した暴水鬼を上回る大きさの――炎で出来た木偶人形。
顔と下半身が燃え上がる炎の形をして宙に浮かび、胴体から伸びる太い腕の先には四つの角ばった指がついている。
つり上がった紅瞳が目の前の敵を睨み付け、全身から放つ熱気はそばにいる鴎垓たちをも容赦なく焼き、水浸しの地面を急速に乾かしていく。
「さあ、始めますわよ――行きなさいっ
フランネルの指示に動き出す巨人。
フィーゴがタイミングよく防壁を解除し、開かれたその体躯からは想像できないほどの速度で敵へと突撃する。
いきなりそんなものが現れた驚愕に攻撃の手が止まる暴水鬼は易々と巨人の接近を許してしまう。
「ぶちかましておやりなさい!」
振りかぶられる巨人の右腕。
我に返り慌てて迎撃する暴水鬼。
圧倒的な暴力が真正面からぶつかり合う。
《――!》
『――ゴァアアア!』
結果は互角。
衝撃波を撒き散らし。
互いに弾かれ仰け反るようにして距離が開く。
「まだ! もう一撃よ!」
立て直しは巨人が制し。
非生物特有の物理法則を無視した動きで体を操り隙を晒す敵へ、今度は左の拳が飛ぶ。
『――オゴッ……!?』
鼻の頭にクリーンヒット。
「まだまだ!」
たじろぐ追撃もうワンセット。
『――ゴガァ……ッ!?』
咄嗟に張った水の壁。
拳は焼け石無駄なだけ。
炎の巨人は伊達じゃねぇ。
「ぶち抜きなさい!!」
《――……ッ!》
拳拳拳の
体の至るところに突き刺さる灼熱の打撃。
防戦一方の暴水鬼。
守ることしかできない。
『――ォオオオオオオオオ……!!?』
――体に刻まれる焼傷。
――打撃の鈍い痛み。
――追い込まれている。
――ここまで強くなったというのに。
――足りない、まだ力が足りない……!
炎の巨人に押し込まれ、体を縮めて耐える暴水鬼。
一種の膠着状態――これを待っていた男たちが居た。
「よっしゃ、行くぞフィーゴ殿」
「おお、準備は万全だ! いつでもこい!」
暴水鬼と巨人が戦っている間ちゃくちゃくと準備を進めていた二人。作戦決行のタイミングは予想以上にいい状況でやってきた。
巨人によって押さえつけれ、片膝をついて身動きが出来なくなった暴水鬼。
頭の位置が低くなり、想定していたよりも容易く首へ手が届く。
だがそれでも人一人の跳躍力ではまだ切断するには力が足りない。
「では行くぞぉおおお!!!」
それ故の――この作戦。
「こぉおおおい!!!」
距離を離して向かい合うように並んだ二人。
位置的にフィーゴが前となり、暴水鬼に背を向け盾を構えている。
そのフィーゴへ向け走る鴎垓。
一気に狭まった二人の距離――その瞬間。
「いっせー――」
加速を維持したまま跳躍した鴎垓、フィーゴの盾を踏み台に。
「――のーっせ……っ!!!」
『
弾丸となった鴎垓は狙い通りの軌道を描き――暴水鬼の後ろ首へと一直線に降下していく。
「――その首、貰ったぁあああああ!!!!!」
全体重に加速を勢いを足し、これまでにない威力の攻撃を繰り出そうとする鴎垓。
そこでようやく暴水鬼はこれがこのための
だが今更気づいたところで身動きの出来ない暴水鬼にこれを避ける術はない。
――獲った。
そう確信した――まさにその時だった。
『――ォオオ』
膝を折り、圧力に耐える暴水鬼。
自身へ迫る恐るべき刃。
――これで終わりか?
――こんな呆気なく?
――いや違う!
――自分はこんなところで、終わる存在ではない!
――もっと力を。
『――オォオオオオォ……!!!』
――もっと、もっと。
『――グォオオオオオオオォォオ……!!!!!』
――もっと強大な力を寄越せ……!!!
その力への渇望が、この窮地において連動する核へと届いた。
核は自身を守る存在のため活性化を始め力を結集させる。
その対象には核に取り込まれた――レベッカも含まれていた。
「うぁあああああぁああああ……!!?!!?」
「何っ……!?」
体を蝕む痛みによって絶叫するレベッカ。
それによって鴎垓の意識が思わずそちらに反応してしまう。
「レベッカさん……!!」
それはフランネルも同様に。
視線の先で苦しむレベッカの姿に動揺し、巨人の制御が僅かに揺らぐ。
暴水鬼はその隙を見逃さない。
『――グォオオォオオオオオ!!!!!』
僅かに緩まった圧力。
拮抗していた力の天秤が大きく傾くのにそれだけあれば十分だった。
逆転は一瞬。
飛び上がりの勢いを利用した体当たりは巨人を浮かび上がらせ、大きく吹き飛ばす。
「きゃっ……!?」
「うぉおお……っ!?」
意識の隙間で行われた脱出劇に対応できず、巨人に巻き込まれないようにするので精一杯のフランネルが身を竦め、突如標的が動き狙いが外れた鴎垓がそのまま空中から墜落するところをギリギリでフィーゴがキャッチ、どうにか無事に地上へと帰還する。
だが、事態は最悪だ。
痛みに気絶したレベッカ。
顔を伏せぐったりとしたその体を全て飲み込んだ青黒い結晶はその中央から一筋の光を放ち――
『――グォオ……ォオオオオオオオオオオオオ…………!!!!!!!!』
――その光を浴びた暴水鬼は、メキメキという音を放ちながら、更に巨大な化物へと成長を遂げていくのだった。
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