折れた筆を、もう一度…

無天童子

冬の茫然

殺人事件を起こした、元有名小説家の贖罪 ~序章~

序章


 ポタリ……ポタリ……


 一面に広がる銀世界に、真っ赤な鮮血が印をつける。


 そこには、腹部から大量の血を流し倒れている

 やせ型の女性と、一人の男の姿があった。



 男の名は、藤田貫平。デビュー当初から、ありとあらゆる賞を受賞し、瞬く間に文壇の寵児となった天才小説家である。


 そんな彼は今、横殴りの吹雪の中で茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた。右手には、血まみれのかんざしを持って……



 「う……う……」


 女性は手を伸ばして男のズボンの裾を掴み、今にも消え入りそうな声で、呟く。


「ど、どうして……」


 男は、今の状況が上手く受け入れられないのか、それとも自分の犯した罪の重さに気付き始めたのか、焦点の合わない目で彼女の方を見つめている。


 男は何も答えられない。



 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。


 ズボンの裾を掴んだ手が、ゆっくりと雪の上に落ちる。


 ドスン……


 そして、彼女はぴくりとも動かなくなった。


 そこから、雪が彼女の体を覆い隠すまでの間、男はその場から動くことが出来なかった。




<次章へ続く>

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