16.初日終了
「セ、セラス様……そ、その棍は、いったいどこで?」
「へ? あ、あの……これは――」
「俺が行く途中で作ったんですよ。俺よりも彼女の方がうまく扱えるので、持ってもらってました」
「つ、作った!?……み、見させてもらってもよろしいでしょうか?」
棍を凝視するリリィの勢いに一歩後ずさりしたセラスが、怯えた表情でショウを見てきた。
ショウはセラスと目を合わせながら、渡しても良いという合図で首を縦に振る。
「……ど、どうぞ」
「ありがとうございま――ほわっ!?」
渡された棍を持った瞬間、リリィはその場で飛び跳ねて驚きを表現する。
その行為に、ショウとセラスだけでなく、隣に座っていた同僚の受付嬢までもが目を丸くした。
あまりのことでショウたち二人が固まっていると、その受付嬢がリリィに駆け寄る。
「ちょっとリリィ。あなた、なんて声上げて――」
「こ、これ! これ見てください!」
「え? なにこれ、『棍』? あぁ、まだ『銘』を打ってないのね……って、何この性能!」
「そうなんですよ! これ程の業物、見たことないです!」
「すごいわね、これ。品質もほぼ最上位だわ……こんなレアモノ、どこで手に入れたのよ」
「こちらのショウ様が――」
「いやいやいや! ちょっとちょっと!」
自分が作ったただの棒きれを囲んで勝手に興奮している受付嬢たちを落ち着かせるため、ショウは会話に割り込んだ。
「なにがどうなってるのか理解できませんが、少し落ち着いてください。俺が作ったそれがなんだっていうんですか、ただの棒きれですよ」
「……まさか、気づいてない?」
「……ショウ様。こちらの棍なのですが、どれほどの物か理解されていますか?」
「へ?」
「作り終えた後、性能の確認をしましたか?」
「し、してません……練習で作った最初の物だし、見てもよく分からないと思ったので」
ショウの言葉を聞いて、リリィと同僚は顔を見合わせた後、深いため息を吐く。
「ショウ様はこちらに来たばかりなので仕方がありません。こちらの棍は、そこいらにある他の物とは段違いに優れた性能になっているんです」
「この棍が……?」
「はい。詳しく説明をしたいところですが……初心者のショウ様がこれほど上質な武器を持っていますと、トラブルの種になりかねません。とりあえず、早くしまっていただくのがよろしいかと」
「は、はぁ……えっ、そこまで? 俺が作ったものが?」
困惑しながらもリリィから返された棍を受け取り、ストレージボックスへ納めるショウが訊いた。
言葉では答えず、リリィは真剣な表情で力強く頷く。
なにやらただ事では無い感じでリリィと隣の受付嬢に見られているショウは、居心地の悪さが限界に達していた。
今日のところは早めに切り上げてこの場を後にした方が良さそうだと判断し、隣で同じく困惑していたセラスと一回、目を合わせた。
気が付いたセラスが一度小さく頷いたので――
「じ、じゃあ依頼の報告も終わったので、今日のところはこれくらいにしておきます」
「……」
ショウは手を上げ、セラスはお辞儀をして踵を返した。
速足で出入り口へ向かうショウの背中を見ていたリリィが一度、小さなため息をこぼす。
それを横目に、同僚が――
「まさか、あれ程の物を作れるなんてね。見た目はまるで普通のシムなのに……なにか生産系のジョブに就いてるの?」
「はい。造形師、だそうです」
「なるほ――え? ぞっ!? はぁ!?」
「驚きますよね、やっぱり」
「当たり前じゃない! この街にはもう居ないし、世界全体を見てもひと握りしか就けてないのよ」
「……『創造の神への第一歩』と呼ばれるほどのジョブですからね。なぜそう呼ばれるのか、片鱗を見た気がします」
「ギルド長や他の冒険者が知ったら大騒ぎでしょうね。是非とも欲しい人材だけど――」
「まだ……私たちだけの心に留めておきましょう。ショウ様がまたここへ来るのかも分かりませんから」
「ふぅん。彼のこと、気に入ったの?」
「そ、そんなんじゃありませんっ! さぁ、仕事しましょ! 仕事!」
「はいはーい」
同僚はニヤニヤしながら自分の席に戻り、やりかけの仕事を再開しようとして――
「……はぁ、あの連中もあれだけ真面目そうな奴だったらねぇ」
蔑むような目に変わった視線を中二階の喧騒に向けるのだった。
――
「なんだか変な感じで終わったけど、とりあえずは初めてのクエストは成功ってことで」
「そ、そうですね。なんだかギルドの人も驚いてましたけど、ショウさんってすごい人なんですね」
「俺が……というより、ジョブがって感じなんだろうけど」
「それでもすごいってことには変わらないと思います」
「あははっ、まぁ……どうだろうね」
冒険者ギルドを後にしたショウとセラスは、始めに居た噴水の広場まで戻ってきていた。
「キリが良いし、今日はこの辺でログアウトしようと思うんだけど、セラスはどうする?」
「あっ、私も今日はやめておきます。そ、それでですね……」
「ん? ……どうかした?」
もじもじしながらセラスはメニュー画面を開いた。
「ショウさんが良ければ、その……フレンド登録をお願いしたいのですが」
「フレンド登録? あぁ、なるほど。もちろん良いよ、っていうよりこちらからもお願いしたいくらいだよ」
「で、では――」
ピロンッと通知音が鳴り、セラスからフレンド招待が届いたことが知らされる。
『YES』のボタンを押すと――
『セラス・プリアとフレンドになりました。』
確認後、画面を閉じてショウはセラスに向き直る。
「じゃあ、これからよろしく。また何かあったら声をかけてくれると嬉しいかな」
「はい、よろしくお願いします」
お互いに笑顔で握手を交わした二人。
それじゃ、と手を上げてショウはログアウトのボタンを押して、現実世界へ戻っていくのだった。
――第一章・終
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